高倉健、その愛。 小田貴月

高倉健、その愛。 小田貴月

 俳優高倉健の死去から5年、2019年に書かれた健さんの養女である貴月氏の手記。

 4章からなり、「第1章 高倉健への旅のはじまり」は二人の出会い、「第2章 時を綯う――寄り添った日々」は健さんのプライベートが語られ、「第3章 言葉の森――作品、共演者、監督のこと」では、健さんが出演した映画に関する思い出、健さんの言葉が語られる。「第4章 Takura's Favorite Movies」では、健さんが好きだった映画のタイトルとその映画についての健さんの感想が簡単に記されている。

 

 健さんの追悼本「高倉健Ken Takakura 1956-2014」は昨年読んでいる。今回、当時だいぶ話題となった著者の最新作がまた発刊されると聞いて、4年前に出された1冊目の本書を読んでみようと思った。

 健さんに関してはこのブログでも何度か書いているが、遺作「あなたへ」の公開時に放送されたNHKの「仕事の流儀 高倉健スペシャル」を見ており、この番組は未だにレコーダに残してある。あまりTVに出ることがない健さんがカメラの前で素顔を見せているこの番組は非常に貴重なもの。この番組の中で語っている健さんが、素顔の健さんだと思っていた私には、この本に記載されたことには驚きだった。

 

 健さんの養女となった著者が書いた本であるから嘘はないと思うが、それでもいくつか疑問が残る。上記したNHKの番組で、芸人岡村隆史が登場し、彼が精神的に病んだ時に健さんから本を送ってもらったことを話す場面がある。カメラに向かってそのことを話そうとした岡村の後ろから健さんが現れ、そういうことは言うんじゃないの、と言って岡村が話そうとするのを遮り、岡村もそれを受けて話をするのを辞めてしまうのだ。いかにも健さんらしいエピソードであるが、この本の中で、この時のことを別の番組(BS朝日のドキュメンタリー)で振り返った岡村の言葉を記している。本のタイトル(「中山博道剣道口述集」)なども含め、これを記載することは、NHKの番組で健さんが見せた態度とは真逆のことにならないのだろうか。たとえBS朝日の番組で岡村がバラしていたとしても。

 

 この他、この本には数多くの健さんの言葉が記されている。それがまるで録音されたかのように詳細に記載されているのが不思議だと感じる。著者が健さんと暮らしたのは17年という長い年月のようだが、その間の言葉もこんなにも詳細に覚えているものなのか。こんな風に言っていた、という記載の仕方ではなく、まさに健さんが発した言葉として多くの言葉が残されているのだ。

 

 そもそも著者がこの本を書いたことに関しての記述、健さんの言葉が冒頭にある。

 越路吹雪さんのマネージャだった方が、三回忌に記したもの。その本を読んだ健さんが著者に「読んでおいて」とその本を渡し、「僕のこと、書き残してね」と話す。本には健さんによる赤鉛筆での印がつけられていた。しかし私には、その本につけられた印の箇所の文章は、30年見続けて来たマネージャによる越路吹雪さんの才能や人生を賞賛するものであったと思う。

 この本にそれを感じるのか、健さんのプライベートの暴露だと思うのか。それが評価を分けることになるのだろう。私にとってはどちらも半々といったところ。

 

 ただ、最終章の健さんが好きだった映画とそれについての感想に関しては興味深く読ませてもらった。やはり健さんイーストウッドの晩年の作や老人が主役の作品に非常に興味も持っていたようだ。そんな作品に出ている健さんをもっと見たかったなぁ。