キネマの神様 ディレクターズ・カット 原田マハ

●キネマの神様 ディレクターズ・カット 原田マハ

 映画「キネマの神様」を原作の著者がノベライズしたという一風変わった作品。

 ストーリーは当然のことながら映画に準じるが、原作者ならではの変更や追加などがあり、映画を観た自分にとっては、より映画の内容を詳しく知ることができた。映画と本作との違いを少し。

 

 本作では、円山家の人々と映画の関わりが詳しく語られる。映画では、ゴウと淑子が過去映画製作に大きく関わっていこと、歩も映画雑誌の編集にいたことが語られていたが、本作では、円山家の皆が、ゴウに連れられ小さい頃から映画館(テアトル銀幕)に行っていたことが語られている。そして皆が映画好きであり、映画に救われたことも。

 この設定はおそらく原作のまま、なのだろうなぁ(原作未読)。この設定があるから歩の息子勇太はゴウの脚本の手直しをして賞に応募しようと思うのだろう。でも勇太は映画オリジナルキャラなのか。この辺りは山田監督のマジックか(笑

 賞の授賞式でのゴウのメモの内容も映画よりも詳しくなっていた。映画では、妻淑子と娘歩への感謝が語られていたが、勇太へのメッセージも追加されている。

 

 さらにラストシーンへの伏線も。映画館で映画を観終わった後、観客が「あちら」の世界から現実の世界へ帰ってくるという話をテラシンが語っている。そう、映画館で映画を観た観客は、映画の世界に入り込んでしまっているということ。映画好きなら誰しもが経験していることだし、これがラストシーンへと繋がっているのがよくわかる。

 

 細かい話だが、淑子を巡ってゴウとテラシンが喧嘩をするシーンが映画にはあったが、その後、ゴウが監督になるエピソードへ繋がっていた。本来であれば、自分の恋を馬鹿にされたように感じるであろうテラシンがこの時にはゴウを心配している場面が映し出されており、ちょっと違和感があったが、本作ではそこのところも丁寧に説明してあり、映画の展開に納得がいった。

 

 映画のノベライズ本は数多くあるのかもしれないが、私が読んでことがあるのは中学生の頃の2冊、「小さな恋のメロディ」と「カリオストロの城」だけ。どちらも子供ながらに大好きになった作品で、当時はネットなどもなく映画に関する情報が少なかったから、喜んで読んだ記憶があり、そして映画では描かれなかったことを知り、満足した記憶がある。数十年ぶりに映画のノベライズ本を読んだが、やはり満足できた。

 

 残された問題は、映画の原作本を読むかどうか。ネットで見る限り、映画とはだいぶ異なる作品らしいのだが。読んだ方が良いのかなぁ。