あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 宮部みゆき他

●あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 宮部みゆき

 5人の女性作家によるアンソロジー。「ハートフル・ミステリー」な短編集。

以下の5編からなる。

 

割り切れないチョコレート(近藤史恵

 「ビストロ・パ・マル」シリーズの一編。店で不穏な空気を漂わせていた男女の客、男がデザートのチョコの味に文句をつけ、それが元で仕入れているチョコの味が変わったことに気づく。男がチョコ専門店の鶴岡だと判明、不思議なことに鶴岡の店のチョコは素数の数の詰め合わせだった。鶴岡の母が病気であることがわかり、チョコが素数の数であった理由が明かされる。

 

鏡の家のアリス(加納朋子

 「アリス」シリーズの一編。探偵仁木は息子から恋人がストーカー被害にあっていると聞かされ調査を始める。恋人の家を張っていた仁木はストーカーである女性を見かけるが、意外な真相が明らかになる。

 

次の日(矢崎存美

 男が別れた妻の家を訪れる。妻は不在だったが、娘が家におり、その娘を人質に籠城をする。警察が介入、娘の代わりにぬいぐるみ「ぶたぶた」が人質となるが…

 

君の歌(大崎梢

 高校の卒業式当日、別れを惜しみ学校に残る皆を横目に湯沢は帰宅の途につこうとするが、そんなに仲が良かったわけでもない、クラスの人気者高崎から声をかけられる。不審に思う湯沢だったが、高崎が話し始めたのは、以前たまたま話をした、3年前の中学校で起きた不思議な事件のことだった。

 

ドルシネアにようこそ(宮部みゆき

 アルバイトで六本木に通う篠原は駅にある掲示板に、高級ディスコ店での架空の待ち合わせの伝言を残すことを楽しみにしていた。ある時その伝言に返事がつく。不審に思う篠崎だったが、道を尋ねてきた喜子はディスコへ一緒に行こうと言い出す。

 

 最近読んでいる本に感動するものが少なかったので、選んだ一冊。アンソロジーはあまり読まないが、「ハートフルミステリー」の言葉に惹かれて読んでみた。

 1話目は、読んだことこそないが、ドラマ化されたものを見たことがある作品。確かにお土産品の品物の数は偶数であることがほとんどだが、本作に登場するものは素数個しか入っておらず、その理由が泣かせるものだった。近藤史恵さんの著書は、「モップの精」シリーズを読んだばかり。あのドラマも近藤さんの作品だったとは。

 2話目は、まさに読んだことがある作品(「虹の家のアリス」)の一編。ただ1年以上前に読んだものなので、途中までそれに気がつかなった。それどころか、今回もあっさりと騙された。初見の時のブログにも同じことが書いてある(笑 あー成長してない。

 3話目は、ぬいぐるみが突然話始め戸惑う(笑 シリーズではなく、このようなアンソロジーでこんな作品と出会うと困ってしまわないのかしら。不思議な読後感。

 4話目は、卒業式当日にする不思議な会話。この作品の中で流れる時間は、ほんの1時間程度なのではないだろうか(回想部分は除く)。こんな短い時間の中で、謎が提示され、解決されるという点では、異色の作品かも。

 最終話は、バブルの時代を知らないとピンとこないかも。1980年代後半の雰囲気がよく出ている。立場こそ違うが、主人公篠原と同年代であの時期を過ごした自分には懐かしい気持ちが蘇った。話は多少強引だが、こんなこともあったのかもと思わせてくれる優しい作品。

 

 選者の言葉が巻末にあるが、確かに5作品とも全く異なる読後感があるものだった。同じシリーズで「イヤミス」版があるらしいが、それよりもハートフル編の第二弾を読みたい(笑