本日のメニューは。 行成薫

●本日のメニューは。 行成薫

 飲食店をテーマにした短編集。以下の5編からなる。

 

四分間出前大作戦

 中華そばふじ屋はラーメンがウリの店。店主の藤田稔はその一口目にこだわり、出前も4分以内に届けられることを条件にしていた。稔の妻は亡くなっており出前は取りやめていたが、店の向かいの病院に入院している父のために息子二人が4分間でラーメンを届けようと練習を重ねる。病院の医師だった村上は二人と出会いなんとかしてあげたいと考える。そして村上の息子を含めた挑戦が始まる。

 

おむすび狂詩曲

 おむすび結の常連となっている女子高生ひかりには秘密があった。母親が作る弁当がマズメシなのだ。SNSに写真をアップするためだけに作られたその弁当はとても食べられるものではなく朝食もマズいため、ひかりは毎朝結によって朝ごはんを食べていた。

 しかし母親が店に来てそのことがバレてしまう。ひかりは母親に思いの丈をぶつけ学校へ行くが、何も食べていないため倒れてしまう。状況を見ていた結衣はひかりの母親に声をかけ、おむすびの作り方を教える。

 

闘え!マンプク食堂

 マンプク食堂さとうの店主佐藤伸行は客をおなかいっぱいにさせることに喜びを見出していた。しかし大型商業施設ができたこともあり客はあまり来なくなっていた。閉店を考えていた伸行だったが、最近来るようになった大飯食らいの客のことを気にしていた。ご飯お代わり自由の店で彼だけが店のご飯がなくなるまでお代わりをするためだった。その客、木下のために伸行は最後の勝負に出る。その木下がTVの大食い番組に出て店のことを話す。

 

或る洋食屋の一日

 グリル月河軒の店主前沢栄吾は寄る年波に勝てず、店を閉めることに。最後の営業日を終え、栄吾は50年作り続けてきたドミグラスソースとワインで妻と乾杯をする。

 

ロコ・モーション

 井上璃空は仕事を辞めたと妻杏南に告げる。料理が得意な璃空はキッチンカーで生計を立てるつもりだった。ブラックな働き方をしていた夫のことを考えそれに賛同した杏南だったが、キッチンカーでの営業に向けて現実は厳しく、調理の準備をするきちんとした仕込み場所を確保できないため、思っていた調理ができないでいた。

 ある時営業をしていたキッチンカーに高校の同級生綱木がやって来る。彼は璃空の妻杏南に昔惚れていたのだった。綱木は璃空のために休業したグリル月河軒の店主を紹介する。二人はショッピングモールで開催されるキッチンカーイベントの大会に参加するため新たな料理を研究する。イベントが開かれ璃空のロコモコは2位に入賞することができたのだった。

 

 「稲荷町グルメロード」で知った行成薫さんの作品。「稲荷町〜」は寂れた商店街を飲食店を中心に再生する物語だったが、本作はそのものズバリの飲食店をテーマにした5つのお話。

 5つのお店が舞台となり、その店の従業員やお客の思いや背景が丁寧に描かれる人情話と言って良いだろう。前に向田邦子さんの日曜劇場のシナリオ作品を読んだが、まさに昔の日曜21時にやっていた日曜劇場のような作品ばかり。上記のあらすじでは省略した部分も多く、登場人物たちの背景にはそれぞれにドラマがあり、薄っぺらい作品とはなっていない。

 最初に目次を見た時に、話によってページ数が随分と異なるんだなぁと感じたが、ここにも少し仕掛けがあった。「四分間出前大作戦」と「闘え!マンプク食堂」は40ページ台、「おむすび狂詩曲」と「ロコ・モーション」はそれよりも長い60ページ台だが、「或る洋食屋の一日」は20ページ台の超短編

 超短編である「或る洋食屋〜」は50年営業を続けて来た店を閉店する老夫婦の物語なのだが、途中店のドミグラスの味を引き継ぎたいと話す若者がちょっとだけ登場、しかし彼はその仕事の大変さを見て何処かへ行ってしまう。その彼が最終話に再登場。しかも「或る洋食屋〜」の舞台となったグリル月河軒を困っている同級生に紹介する、という展開。独立した短編集のように思わせておいて、実は4話目5話目には繋がりがあったというオチ。しかしこれには伏線があって、超短編の4話目に、3話目「闘え!マンプク食堂」のマンプク食堂さとうの店主佐藤伸行がちょっとだけ顔を出しているのだ。

 ここまでやるなら、1話目2話目もなんらかのつながりがあっても良かったと思うが、それをやるとちょっと無理があったのだろう。丁度良い仕上がりだと思う。

 

 1、3、4話目は店の主人が高齢で閉店を考えるような状況。そこでは店だけではなく、商店街も同様な運命だと示唆されており、これが後の「稲荷町グルメロード」シリーズにつながったようにも思える。

 本シリーズの続編と思われる作品もあれば、「稲荷町グルメロード」シリーズもある。まだまだ読んでみたい作家さんである。