新・戻り舟同心 鳶 長谷川卓

●新・戻り舟同心 鳶 長谷川卓

 同心を息子に譲り隠居していた二ツ森伝次郎が奉行所から永尋(ながたずね〜未解決事件)の担当として復帰する。同僚だった染葉、現役時代に使っていた岡っ引き鍋虎と孫の隼などと一緒に事件解決に奔走する。4作品で終わったシリーズが、「新」と銘打って新たにシリーズ化され、その3作目。以下の2章からなる短編集。

 

「鳶」

 前々作「父と子と」で伝次郎と花島の暗殺に失敗した鳶が、復讐を誓い、この世とあの世の「渡し守」をする殺し屋二人を仲間に加え、伝次郎たちの暗殺を試みる。しかし真夏がいち早く一味の一人の存在に気づき、伝次郎たちは塒を張り込む。それでも一味はそれに気づき、お互いの騙し合いが始まる。

 

「犬の暮らし」

 上司である百井から訴訟の始末を頼まれた伝次郎は、その探索のために、犬と呼ばれながらも下働きをしてくれる秀治を使うことにする。秀治はネタを仕入れるために、命を狙われながらも東奔西走する。そんな秀治を正次郎が見かける…(構想覚書 未完)

 

「あとがきにかえて」

 前章「犬の暮らし」の執筆途中で、著者である長谷川卓氏が2020年11月に逝去されたことが前章終わりに書かれている。本章は、長谷川氏の奥さんである佐藤亮子さんが長谷川氏の思い出とともに戻り舟シリーズに関することを語る。

 

 いよいよ戻り舟シリーズ最終作。1話目は、前々作で登場した鳶一味との戦いが再度描かれる。伝次郎たちと一味との頭脳戦も繰り広げられ、伝次郎の仲間たちが活躍する。殺し屋鳶一味が登場する割に少し物足りない感じもするが、病床での執筆ならば仕方ないか。

 2話目は伝次郎たちを影で支える「手の者」の一人、秀治が主役になる話だが、残念ながら未完で終わってしまっている。

 ラストは、逝去した著者に代わり、そばで執筆を支えた奥様の話。伝次郎や正次郎のモデル、そして伊都と正次郎の話(「雪のこし屋橋」の一編「浮世の薬」と思われる)が奥様の一言がきっかけで製作されたなどが語られ、ファンにはたまらないあとがきとなった。

 

 新旧含め7作品となった本シリーズ、著者が逝去されたため、これ以上読めないのは本当に悲しい。いつか映像化されることを期待しつつ、著者が残してくれた他の作品、他のシリーズも読んでいきたいと思う。