死神の棋譜 奥泉光

●死神の棋譜 奥泉光

 2011年5月、羽生名人と森内が争う名人戦、第4局。元奨励会員の夏尾により将棋会館詰将棋が持ち込まれる。翌日、その夏尾が行方不明となる。元奨励会員でありライターの北沢は、同じく元奨励会員の先輩ライター天谷から、その詰将棋に関わる情報を得る。それは魔道会と呼ばれる将棋結社に関するものであり、20年前にも同じような不詰の詰将棋に関わった奨励会員が行方不明になっていた。

 北沢は魔道会の本拠地とされた北海道に女流棋士玖村とともに向かう。そこで北沢は不思議な体験をする。その後、北沢は玖村と男女の関係になり、玖村の気をひくためにも、夏尾の事件を追い続けるが、意外な真相にたどり着くことに。

 

 最近読んでいる将棋がテーマの本であり、Amazonのお勧めに上がった一冊。「駒音高く」や「盤上のアルファ」が面白かったのと、ミステリーとあったので期待して読み始めたが、これはちょっと合わなかった。いきなり、実在の棋士やタイトル戦の名前が登場し、将棋好きとしては大いに期待したのだが。

 まず文章が長い(笑 ほとんどが北沢の視点から描かれており、彼の思考が文章化されているが、同じような思考を繰り返すことが多く、なんだかなぁと思ってしまう。

 もう一つは、最近読んだ「奈良まちはじまり朝ごはん」に対して感じたのと同じになるが、その世界観。「奈良まち〜」では、幽霊が存在する世界が描かれ、ちょっと違和感を感じたが、本作では、現実的な将棋界を描く一方で、事件を追う北沢が幻想的な世界に引き込まれる場面があり、興味が削がれてしまった感じ。

 ミステリーとしてはなかなか面白かったのに、この幻想的な場面があることでその面白さが半減してしまった。ただネットではこの作家のファンらしき方々が本作も評価しており、そんな世界観があることを知らずに読んだこちらがいけなかったのだろう。