東京物語

●372 東京物語 1953

 「東京家族」が今一つモノ足りなかったのでオリジナルを観ることに。

 

 基本的に山田監督がオリジナルを忠実に再現させたことがよくわかる。なんでここまで同じにするのか、といったシーンも多い。祖父母が来ることで自分の勉強机が動かされた孫が不満を言うシーンや美容院で長女が客に髪型を変えることを勧めるシーンなど。もちろんどちらもストーリー本線にあまり関係のないシーンなのでどうってことはないのだが。

 それゆえに逆に山田監督がオリジナルと大きく変更した部分が気になる。

 

 一つ目は、次男(実際は三男、山田版では妻夫木聡が演じた)は戦死しており、その未亡人(原節子、山田版では蒼井優)との絡みが一つの大きなテーマであるのに、山田版では妻夫木は普通に生きている点。

 60年後の日本を舞台にしているため、「戦死」にはできないのは仕方ないにしてもなぜ蒼井優を未亡人として登場させなかったのか。オリジナルを観て、最後の父親との会話途中で彼女が涙する理由がはっきりとわかった。山田版で蒼井優が自分を卑下して義父の言葉に涙するのもわからないではないが、オリジナルの展開には到底かなわない。義母にも言えなかった自分の心情をやっと義父に打ち明けることができた原節子が流す涙は60年前の日本女性では当たり前のことだったと思える。それが今の日本には不釣り合いだと考えたのだろうか。

 

 二つ目は、母親の葬式後、実家に滞在していた原節子に次女(山田版では存在せず、近所の娘さんがいる)が本音を打ち明けるシーンが山田版にはなかったこと。葬式後とっとと帰ってしまう長男長女に対する不満やその場で形見分けの話をする長女への不満。山田版の感想でも書いたが、ここは観客も不満に思ったのではないか。しかしそれを次女が言葉にすることで観客も共感し少し救いになっている。しかもそれに対して原節子が述べる言葉も真実をついていて、それがこの映画のテーマにもなっているだろうに。

 

 山田版のことばかり書いてしまったので。

 オリジナルは、熱海の旅館の老夫婦の部屋の外のスリッパや老夫婦の実家の窓越しのシーンが冒頭とラストに使われるが違いは母親がいなくなっていることなど、小津監督の画面作りの旨さに感動する。しかし世界的にもこの映画が認められている理由は画面作りだけではないだろう。

 今向田邦子さんの追悼本を読んでおり、その中でどなたかが向田さんのエッセイについて触れているのだが、向田さんが題材にしたものはどれも皆の周りにあるものばかり、しかし誰もそれについて書いてこなかったことを向田さんはエッセイの題材にした、と書かれていた。この映画も派手なシーンや恋物語は一切でてこない。あるのは老夫婦が直面した子供たちとの現実なだけだ。これはどの国でもある話であり、いつの時代にもある話である。それを淡々と描いているだけ。だからこそこの映画はいろいろな国の人々の共感を得たのだろうと思う。

 若い時に観た記憶はないが、若い時に観てもこの映画の良さには気づけなかっただろう。この歳になって初めてわかる、という映画もあるのだ。

 

蒼林堂古書店へようこそ 乾くるみ

●蒼林堂古書店へようこそ 乾くるみ

 林兄弟シリーズ第3作。14編からなる短編集。

 ミステリ専門の古書店の店主が林兄弟の1人で探偵役?。高校の同級生、近所の高校生コンビ、そして月イチで来店する女性教師が常連でこの5名で「日常の謎」系の会話がされそれを解いていく、というストーリー。

 さらに各話の終わりに、店主のもう一つの顔である書評家として国内外のミステリをその時の常連の会話に出たテーマに沿って紹介する、というおまけ付き。

 

 ミステリ紹介はテーマごとにされているので、物によっては触手が動いてしまう(笑

 短編としての日常の謎は、そんなにスゴい謎は出てこないが、それでも「乾くるみ」なので中には驚かされる謎も登場する。

 「臨光寺池の魔物」 ワゴン車の窓に書かれた店名。

 「転居通知と名刺」 マンションで誰もいない階に止まる謎。

 「亡き者を偲ぶ日」 本棚に不自然に納められた数冊の本の題名と著者での暗号。

などなど。日常の謎としては高いレベルのものと言えるだろう。しかし一番驚いたのは

 「都市伝説の恐怖」 子供の作文に書かれた恐ろしい文章の真実は…。

かな。相変わらず、よくもこんなことを考えつくなぁという解決編。

 

 しかし何と言ってもこの本の最大の売りは最後の一編で明かされる、全てが繋がっていた、というトリック。そしてその話のミステリ紹介の最後の一文でのオチ。

 乾くるみはイニシエーションラブで名を馳せた作家として知られるが、自分としてはこの1冊のオチの方が好きだ(笑

 蛇足だが、各話の最後にあるミステリ紹介の最後に書かれている「本とも」。いかにもそれ風に装うために書かれた言葉と思っていたら、徳間書店が実際に発行しているPR誌の名前なのね。今度書店で探してみよう。

 

 

 

 

 

スペシャリスト

●371 スペシャリスト 1969

 駅馬車が盗賊ディアブロ一味に襲われるが、宿にいた1人の男が盗賊たちを倒す。しかし盗賊の頭だけは逃してしまう。男はハッド。ハッドは兄が銀行強盗の汚名を着せられ処刑されたブラックストーンの街へ行く。

 街では駅馬車で助けられた住民が、殺し屋ハッドが来ることを保安官に告げなんとかするように騒ぎ出す。住民はハッドの兄をリンチにかけ殺していた。兄は銀行強盗をしたがその金をどこかに隠していたのだった。

 ハッドは兄が住んでいた家へ行く。そこにはシドという女性が父ブートと暮らしていた。ブートが銃でハッドを撃とうとするところへ保安官がやって来て銃を取り上げる。保安官は住民から銃を取り上げ平和な街にしようとしていた。保安官はハッドからも銃を取り上げる。街に着いたハッドは住民から狙撃されそうになり保安官の銃で返り討ちにする。

 街には銀行を経営する未亡人バージニア、ハッドの兄の隠した金を狙うヒッピーたち、ハッドの昔馴染みで娼館を開くヴァレンシアなどがいた。ハッドはヴァレンシアの店でヴァレンシアからディアブロが会いたがっていると聞く。その時店でブートがヴァレンシアに絡んで来てハッドを含め大喧嘩となる。ハッドはブートに兄の家を買った金をどこから手に入れたか尋ねるがブートは答えず、ハッドはブートを撃ち殺してしまう。そこへやって来た保安官を殴りハッドは逃亡する。

 ハッドはシドの家へ行き、兄が殺された日の話を聞く。シドは兄は無実だと証言。

 ハッドはディアブロに会いに行く。途中保安官に襲われたが反撃、2人は一緒にディアブロのところへ行く。ディアブロはハッドの兄が銀行強盗をした後に会っており、金を隠したことを聞いていた。その時一枚の紙幣を受け取り、アベマリアという言葉を聞いていた。ディアブロはハッドに金を探させることに。

 ハッドはシドの家へ。シドを襲っていたヒッピーたちを蹴散らし、シドからアベマリアの鐘の場所を聞く。翌朝ハッドはアベマリアの鐘のある墓地へ行き、紙幣の形から壁に穴をあけ、日が差し込んだ先の墓を掘って金を見つける。そこに保安官が来て金を預かる。その時保安官助手に撃たれてしまうが、防弾チョッキで命は取り留める。保安官はハッドを街に運び牢へ入れる。住民は金を返すように騒ぎ始めるが、保安官は銀行で確認してもらった後だと話す。バージニアは確認に2日かかると話し、保安官は銀行に助手を置くことにする。喜んだバージニアは保安官にシャンパンをプレゼントする。

 その夜、薬入りのシャンパンを飲んだ保安官は眠ってしまう。ハッドは牢から脱獄する。バージニアは保安官助手を殺し、街から逃げる。途中逃亡を手伝った男を射殺、札束を燃やそうとしたところをディアブロに見つかってしまう。ディアブロはさつが偽札だと見抜き、バージニアを連れて街へ行き、住民に全てを話す。ディアブロバージニアに本当の金のありかを喋らせるために彼女をレイプする。保安官が丸腰でディアブロの前へ行き話し合いをしようとするが、射殺される。ハッドはバージニアを襲っている賊たちを撃ち殺し、ディアブロ一味と銃撃戦を始める。一味を倒すがハッドも怪我を負う。ハッドはバージニアに全てを告白させ、金のありかを聞く。

 バージニアの家で金を見つける。怪我をしたディアブロがハッドに勝負を挑むが、ハッドが彼を撃ち殺す。ハッドは金を取り出し、住民が見ている前で金に火をつける。火が燃え尽きたところでハッドは倒れてしまう。ヴァレンシアとシドがハッドの治療を行う。騒動の中、ヒッピーたちが銃を取り、住民たちを脅し裸にさせ金品を奪う。そしてヒッピーたちはハッドを挑発する。拳銃に弾がないハッドだったが、防弾チョッキを着て彼らの前に出て行く。銃を撃っても倒れないハッドを見たヒッピーたちは逃げ出す。

 ハッドは1人馬に乗り、夕日に向かって街から去って行く。

 

 なんというか、不思議、を越えてとても奇妙な映画だった。

 ストーリーとしては、兄を街の住民たちにリンチで殺された弟の復讐劇。だが、兄は盗んだ金をどこかへ隠して死んでいて、その金を探し出す、というサブの話もある。ここまでなら、なんとなく西部劇にありがちな話だが、そこへ癖のある人物たちが登場する。住民たちの銃を取り上げる保安官、主人公や保安官を色仕掛けで落とそうとする銀行経営者の女性、どうして西部劇に、と思わせる若者ヒッピーたち、なぜか主人公と気の合う盗賊ディアブロ。主人公も防弾チョッキを着ているしね(笑

 映画としても、銀行未亡人のヌードが出てきたり、ラストでは住民たちがなぜか裸にされたり。盗賊の頭のディアブロが保安官と頭突き勝負をしたり。B級映画、というよりカルトっぽい映画なのか(笑

 黒幕が銀行未亡人だと判明するが、主人公は住民たちの金を燃やすことで兄にリンチをした住民たちにも復讐を果たす。ストーリーとしては辻褄があっているが、それでも首をかしげることも多い映画だった。ネットにある解説を読むと、時代背景があり不思議だと思われたこともなんとなく納得できたが…。 

 まぁハリウッド製作の映画ではないから、一筋縄ではいかないんだろうなぁ。

 

20年後 オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション

●20年後 オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション

 オーヘンリーの全9編からなる短編集。特に良かったものを3つ。

 

 「20年後」

 街を巡回中の警官が男に声をかける。男は20年ぶりに友人に会うと話す。警官が立ち去ると友人らしき男がやって来るが…

 

 「改心」

 金庫破りのジミーは刑務所で赦免状を受け取り出所する。ジミーは仲間の元へ訪れ、金庫破りの道具を受け取り早速何件かの金庫破りをする。敏腕刑事ベンが捜査に乗り出すことに。1年後ジミーはある街で銀行頭取の娘と知り合い、真面目に生きていくことを決意する。ジミーは娘の父親と銀行で会うが、その時誤って子供が金庫に閉じ込められてしまう。ジミーは昔の腕を披露し子供たちを助ける。そこにはベンが偶然居合わせていたが…

 

 「心と手」

 東部行きの特急列車に乗ったフェアチャイルドのお嬢さん。向かいの席に昔の知り合いイーストンが座っていることに気づき声をかける。しかしイーストンは隣の男と手錠で繋がれていたため驚く。護送される犯人の言葉でイーストンが刑事であることを知ったお嬢さんは安心してイーストンと会話をするが、犯人の希望で喫煙車両へ移動していく。それを見ていた他の客たちが話し出す…

 

 残りは

「高度な実利主義」 令嬢に恋した男が公園で浮浪者に声をかけ話し始める

「三番目の材料」 ヘティはシチューを作ろうとするが材料が足りず…

「ラッパの響き」 強盗を犯した犯人が昔の知り合いと出会うが、彼は刑事だった

「カーリー神のダイヤモンド」 カーリー神のダイヤモンドのボツ記事を見た記者が「バラの暗号」 詩人が自宅から見える屋敷の窓に薔薇を見つけるが…

オデュッセウスと犬男」 犬の散歩を義務付けられた男たちの話

 

 オー・ヘンリーの名前は何かにつけ目にすることがあったが、実際に小説を読むのは初めて。本当に短い短編でありながら、その切れ味は抜群。特に上記した3編は、短いものはほんの数ページしかないが、意外な展開とオチがあり驚かされる。

 どの話も映画、小説、漫画などで目にしたように錯覚するが、オーヘンリーが活躍したのは今から100年以上前。こちらがオリジナルだったのか。

 

東京家族

●370 東京家族 2012

 広島の島に住む平山家の年老いた両親が子供たち(長男、長女、次男)が住む東京へ出てくる。新幹線で品川に着いた両親を迎えに次男が車を出すが、間違えて東京駅へ行ってしまい、両親はタクシーで長男の家へ。

 長男の家に兄弟が揃い皆で食事をする。そのまま両親は長男の家へ泊まる。翌日長男が両親をドライブに連れて行こうとするが、医者をしている長男の元へ急患の知らせが入りドライブは中止となってしまう。

 次に両親は長女の家へ泊まりに行く。美容院を経営する長女も忙しく両親に東京案内ができないため、次男に連絡、次男が両親を東京見物に連れて行くことに。長女は夫と相談し、両親を横浜の高級ホテルに泊めることに。両親はホテルに泊まるが高級すぎて落ち着かない。そのため両親は2泊3日の予定を取りやめ、長女の家に戻ってしまう。しかしその日は長女の家で町内会の集まりがあるため、両親を家に泊めることができないと言われてしまう。父親は東京に住む友人の案内で亡くなった友人宅へ。母親は次男の家に行くことに。

 父親は亡くなった友人宅を訪れた後、案内してくれた友人と居酒屋へ。長男から禁止されている酒を飲んでしまう。母親は次男の家へ行くが、そこに次男の恋人が現れ紹介される。その夜母親は次男の恋人と多くの話をする。翌日母親は恋人に何かの時のためにとお金を渡す。

 そして両親が長男の家に戻ってくる。しかし母親は階段の途中で倒れてしまい病院へ。長男の知り合いの医者に診てもらうが、持って明日の早朝だろうと診断されてしまう。集まる兄弟たち。医者の見立て通り、翌朝早朝母親は亡くなってしまう。

 母親の火葬を済ませ父親は広島へも帰る。次男と恋人も一緒について行く。そして実家で葬儀が行われ兄弟が揃う。しかし天候が悪くなり、長男夫婦と長女はその日のうちに帰ってしまい、次男と恋人が実家に残ることに。

 数日が経ち次男と恋人も東京へ戻ることに。そのことを告げた恋人に父親は礼を言い、母親が30年来着けていた腕時計を形見だと言って渡す。2人は帰って行く。実家では父親が隣の娘と会話しながら普段通りの生活を送っていた。

 

 山田洋次監督が小津安二郎監督にオマージュとして作った作品。オリジナルを観たのは随分と昔なのでよく覚えていない。それでも田舎から子供たちに会いに来た老夫婦、という設定や父親と息子の嫁の愛情などは覚えていたが。

 オマージュ作品なので、いつものような山田監督の明るさはない。前半、子供たちの家で邪魔者扱いされる老夫婦があわれだし、ホテルに泊まってもらおうとする長女の考えも痛々しい。救いは次男の恋人蒼井優で、これがオリジナルの原節子さんの役割かと思うが、蒼井優に救われたのは母親でオリジナルとは異なるのかな?

 後半、母親が倒れてからはさらに暗いイメージとなる。病院での診察、早朝の死去、田舎に戻っての葬式、葬式後の遺産分け。以前観た時は自分の母親が元気だったのでそんなに感じなかったが、現在母親も弱ってきているので、この後半は観ていて辛かった。

 

 山田監督が大事にしている映画作りの基本、観終わった後に元気になるものを、というメッセージが、オマージュであるこの映画では出来なかったようだ。その埋め合わせにこの映画のキャストをそのまま使った「家族はつらいよ」を作ったのかしら?

 

 

鬼平犯科帳 第8シリーズ #08 影法師

第8シリーズ #08 影法師

 

https://www.fujitv.co.jp/onihei/photo/s8-8.jpg

 忠吾が鬼平の肝いりで結婚することになった。相手は同じ同心吉田藤七の四女おたかであった。

 婚礼が10日後に迫った非番の日、忠吾は遊女千代菊と遊ぶために店に向かっていたが、その忠吾を見て驚く浪人がいた。浪人は塩井戸の捨八という盗賊だった。捨八は忠吾の跡をつける。忠吾は途中叔父中山茂兵衛と出会う。行き先を聞かれた忠吾は墓参りだと嘘をつくと茂兵衛が一緒に行くことに。寺で忠吾はこの後はお役目があると嘘を言い、茂兵衛と別れる。忠吾をつけていた捨八は忠吾を見失ったため、茂兵衛をつける。捨八は茂兵衛が菓子舗池田屋に入っていったのを見届ける。

 忠吾は茶屋へ行くが千代菊は昨日見受けをされていた。

 宿に戻った捨八を井草の為吉が待っていた。捨八は為吉にりゃんこの源三郎を見つけたことを話す。捨八と為吉は昨年秋熊谷宿料理屋棚田屋へ押し込んだが、源三郎に奪った270両を奪われ、仲間たちを斬り殺されていた。為吉は傷を負ったが生き残っていた。源三郎は長坂万次郎と手を組んでいた。捨八は為吉に源三郎と万次郎に恨みをはらすため、源三郎が狙うだろう池田屋を先に襲う、と話す。

 翌日捨八は仲間を集めるために藤岡へ出かける。為吉は万次郎と会い捨八のことを話す。実は万次郎と組んでいたのは為吉だった。為吉は今回も捨八が池田屋を襲った後にその金を奪い、捨八一味を皆殺しにするつもりだった。為吉は池田屋の見張りに入る。 

 この2人の話をおまさが偶然聞いていて、鬼平へ報告する。おまさは為吉の宿が井筒屋であることも報告する。鬼平は井筒屋に見張所を設けるよう小林に命じる。さらに忠吾に井筒屋に泊まり為吉のことを調べるように命じる。忠吾は婚礼まであと9日だと言うが、鬼平は婚礼のことは忘れろと話す。

 忠吾は鬼平に命じられた通り、宿に入るとすぐに腹痛を訴え、医師の渋谷道仙とつなぎが取れる体制を取る。おまさと彦十は池田屋を調べる。池田屋の前をうろつく為吉を見た彦十は見張りではないと見抜き、為吉の跡をつける。おまさは池田屋に入り、最近奉公に上がった人間がいないか尋ねるが、そんな人間はいなかった。彦十は飲み屋で為吉が万次郎とその仲間の浪人たちと会っているのを目撃する。

 捨八が江戸へ仲間たちを連れて戻ってくる。為吉は万次郎に知らせ、捨八の仲間が増えたことをおまさは鬼平に知らせる。為吉は捨八に嘘を言い盗みを急がせ、捨八は明日押し込むと話す。

 鬼平の元に捨八、為吉について知らせが入る。鬼平は為吉の狙いを見抜く。

 忠吾は病人のふりに飽き店の外へ出てしまう。店に戻った際に捨八と出くわし、捨八は逃げる。忠吾が追いかけ斬り合いになり、沢田たちが捨八を捕まえる。そして捨八の仲間の盗人宿、為吉と万次郎たちがいる酒屋へ踏み込む。

 忠吾は牢にいる捨八に会いに行き、源三郎はすでに捕まり死罪になっていると話す。

 五鉄で鬼平は忠吾の労をねぎらいつつ、忠吾の考えを見抜き注意をする。その場に忠吾の叔父茂兵衛が来て、おまさ彦十も含め酒盛りが始まる。

 

 とうとう忠吾が結婚することに。以前見た「見張りの糸」が忠吾が既に結婚している状態での話だったので、今回の「影法師」についてはその時に調べていた。

 鬼平シリーズの中ではマスコット的な存在の忠吾なので、その彼が結婚するとなればもっと賑やかな話になるのかと思いきや、その忠吾が盗人に見間違いされる、という捕物メインの話で、忠吾の結婚話としては、婚礼前の女遊びとそれを見抜いていた鬼平に怒られるぐらいだった。

 一番驚いたのは、宿屋に潜入する忠吾を助ける医師渋谷道仙役の山内としおさん。ちょっと特徴のあるキャラで、今回の話のコメディリリーフ的存在となっていた。調べてみたら、必殺シリーズ中村主水の上役の田中をやっていた俳優さん。あー懐かしい。そう言われてみれば、忠吾との会話にその雰囲気がちょっとだけ出ていた。

 懐かしいと言えば、捨八役の新克利さんも、為吉役の赤塚真人さんも子供の頃からよく見ていた俳優さんばかり。

 これで第8シリーズも終わり。本数は少なかったが、まだまだ面白い話があると思わせてくれるシリーズだった。次からはいよいよ最終第9シリーズ。本数が少ないのがホントに残念だが、楽しんで見たい。

 

 

天岩屋戸の研究 田中啓文

●天岩屋戸の研究 田中啓文

 前作に続く第3作にして完結編。

「オノゴロ洞の研究」「天岩屋戸の研究 序説二」「雷獣洞の研究」「天岩屋戸の研究 本論」の4編。

 「オノゴロ」は古事記イザナギイザナミが最初に産み落とした島の名前。「オノゴロ〜」ではさらに2人が最初に産み落とした神の名前ヒルコを模した?怪物が登場し騒動を巻き起こす。

 「雷獣洞〜」は大学生の集団も登場し少しミステリー風な小説となっているが、ラストによくわからなかった登場人物の名前やセリフの意味が示され、大きくズッコケることになる(笑 作者の落語関連の小説も読んでいるので落語好きなのは当然知っているが、こんなオチを持ってくるとは(笑

 「天岩屋戸〜」は前作にも序説があり、このシリーズの最大の謎が明かされる1編。怪しかった顧問や校長の思惑が示され、民俗学研究会の面々が危険にさらされるが、主人公が最後に大活躍して大団円?となる。こちらも古事記の天岩戸話に関連したものとなっており、その場所についてはまだしも、研究会顧問の学説は少し驚いた。しかしオチがふた昔前の「スーパーマン」そのものとは…(笑

 

 様々な言葉で紹介されるシリーズだが、私にとっては、くだらなくてちょっとだけ笑えて面白いシリーズだった。