探偵はバーにいる 東直己

●探偵はバーにいる 東直己

 ススキノで探偵をしている俺は、北大の後輩原田誠から、いなくなってしまった恋人諏訪麗子の行方を調べて欲しいと依頼される。調査を始めた俺は麗子がラブホテルで起きた殺人事件に関心を持っていたことを知り、その事件の調査を始める。そして被害者工藤が素人ながらデートクラブを営業していたことを知る。さらに調査先で有名なデートクラブ嬢のモンローと出くわし、その彼氏であるハルに襲われることに。

 桐原組のアイダや新聞記者の松尾、おやじさんと慕う佐々木などから情報を得た俺はハルと対面し、殺人事件の真相を知ることになる。そしてモンローにそれを告げつつ、モンローのハルに対する想いを知る。全てが解決し麗子を原田のもとに返した俺だったが、最後に引っかかっていた部分を麗子に問いただす。

 

 

 映画「探偵はBarにいる3」の原作として一部を使用されており、また東直己によるススキノ探偵シリーズの第1作ということで読んでみた。

 原作と映画が同じなのは、探偵である俺が原田から麗子の行方を調べて欲しいと依頼されること、その麗子が風俗嬢として働いていたこと、の2点。もちろん俺に関わる桐原組、大学院生高田、新聞記者松尾、ケラーオオハタ、などは映画と同じ設定のようだ。

 大きく異なるのは、麗子が失踪した理由。風俗嬢として出向いたラブホテルで殺人が起こり、その場に居合わせた麗子が身を隠すというのが、本作での麗子失踪の理由。ここにモンローの彼氏であるハルが関わり、そのためモンローも関係してくるのだが、映画のハルやモンローとは人物設定が大きく異なっている。

 

 映画3本を見て、純粋なハードボイルドではなく、コミカルハードボイルドな点が少し不満だったが、それは原作がそうであるためなのがよくわかった。それでも、チャンドラーのハードボイルドが100%だとしたら、映画は60%、原作である本作は80%程度と言ったところか。

 

 原作が面白かったら、シリーズを続けて読もうと思ったが、最近軽いミステリの短編集しか読んでいない自分にとっては、ちょっとハードルが高かったように思うので、続編を読むのは少しさきにのばしたほうが良さそうだ。

 

 

ナイル殺人事件

●711 ナイル殺人事件 2022

 第一次世界大戦下、1914年ベルギー位ゼール橋。ポアロの属する部隊は橋の攻略を命じられるが、それは危険な作戦だった。それでもポアロの風向きを読む力で作戦は成功する。しかし大尉は敵が仕掛けた地雷によって死亡、ポアロも顔に大怪我を負う。入院したポアロを婚約者カトリーヌが見舞い、口髭を生やせば良いとアドバイスする。

 1937年ロンドン。クラブにいたポアロサロメの歌を聞いていた。ジャッキーとサイモンはダンスを踊っていたが、そこへジャッキーの友人リネットが現れる。リネットは遺産を相続した大富豪だった。ジャッキーは婚約者のサイモンを紹介、彼の仕事をリネットに世話してもらうことに。お礼にサイモンはリネットとダンスを踊るが、二人は怪しく惹かれ合う。

 6週間後。ポアロはエジプトにきていた。そこで友人のブークと再会。ブークの母を紹介され、彼らの友人であるサイモンの結婚パーティに招かれる。しかしサイモンの相手として現れたのは、リネットだった。パーティには、リネットの財産管理人、名付け親とその看護婦、リネットの元婚約者の医師、歌手のサロメとその姪、リネットのメイドなどが参加していた。そのパーティにジャッキーが現れる。ポアロはサイモン夫妻からジャッキーにサイモンのことを諦めさせて欲しいと頼まれる。ポアロはジャッキーと話すが、彼女は22口径の銃をポアロに見せつける。

 夫妻はジャッキーから逃れるために予定を変更しクルーズ船に皆を招待する。平和な時を過ごす夫妻と客たち。ポアロはブークがサロメの姪ロザリーに惹かれていることを告げられる。神殿を観光していた皆だったが、夫妻のそばに大きな石が落下する事故が発生する。皆が船に戻るとジャッキーが客として乗船してきた。リネットは彼女を下ろすようにサイモンに言うが、ジャッキーは正式なチケットを持っているためそれはできなかった。

 夫妻は翌日船を降りて帰国するとポアロに話しポアロもそれが良いと答える。夜更けロビーでジャッキーとサイモンは言い争いを起こす。そしてジャッキーがサイモンを撃ってしまう。興奮状態のジャッキーをロザリーが看護師、怪我をしたサイモンをブークが医師の元へ運ぶ。

 翌朝リネットが射殺されているのが発見される。22口径の銃弾跡が残っており、ジャッキーが疑われたが、前夜の事件のことがあり、ジャッキーには完全なアリバイが成立していた。ポアロはサイモンからリネット殺しを調査を依頼され、皆の取り調べを始める。

 招待客それぞれにリネットを恨む事情があることがわかってくる。川底の調査で犯行に使われたと思われるジャッキーの拳銃とスカーフ、血染めのハンカチが見つかる。さらに犯行とともに行方不明となっていたりネットのネックレスがブークの母親の部屋から発見される。

 実はポアロはブークの母親に頼まれ、ロザリーの身元調査を行っていた。そしてポアロはブークとその母親、ロザリー、サロメに対し、ロザリーはブークの理想的な相手だと話す。その後、2人目の犠牲者、リネットのメイド、ルイーズが死体となって発見される。ポアロはルイーズが事情聴取の時に発した言葉が、犯人に向けたものだったことに気づく。

 ポアロは最後にブークの事情聴取をする。彼がサイモンが撃たれた時にリネットに知らせていないことを疑問に思い、その際にリネットの部屋に行き死んでいるリネットを見つけ、報告する代わりにネックレスを盗んだのではないかと話す。それを認めたブークは犯人の名前を告げようとするが、その瞬間何者かに撃たれてしまう。

 友人であるブークを殺され、ポアロは一連の事件の謎解きを始める。リネット殺しは計画的に行われた犯行であり、ブークの母の赤い絵の具が盗まれた時点で全てが始まっていたことを説明、犯行はジャッキーとサイモンの共犯であり、サイモン銃撃は見せかけで、その隙にサイモンがリネットを殺したのだと話す。証拠がないと抵抗するジャッキーだったが、ポアロからハンカチの血が絵の具ならば川の水で薄くなっているはずだとハンカチを見せられる。観念したジャッキーはサイモンと抱き合い、自分たちに向けて引き金を引き自殺する。

 ポアロは船を降りる皆と会話を交わす。

 半年後、ポアロサロメのいるクラブを訪れ彼女の歌を聞いていた。しかし彼の顔には口ひげはなかった。

 

 1978年版の「ナイル殺人事件」を小学生の時に映画館で見ており、Amazonプライムで本作が見られるようになったので早速鑑賞。1978年版は当時小学生でありながら、ストーリー展開の上手さに感心した覚えがある。ポアロが容疑者一人一人に事情聴取をする際、誰にも犯行ができる可能性があったことを示唆するのだが、その推理の再現を画面上で見せることで非常に分かりやすかった。これはラストにポアロが真犯人を指摘する際も同じであり、ストーリー上で流れた場面の裏で犯人「たち」がいかに共犯者に危険を伝えそれを察知した共犯者が犯行に及ぶかを見せてくれていたので、犯行の手口をよく理解できた記憶がある。これは石坂金田一でも同じ手法が使われていたが。

 

 約45年ぶりに製作された本作はストーリーの展開がより丁寧になっていたと感じる。冒頭のポアロの戦争体験は置いておくとして、ジャッキーとサイモンがリネットに出会う場面やジャッキーが新婚の二人の前に現れる場面など。1978年版にもこんな説明場面あったのかしら?

 登場人物の肩書き?が変わっているのは、今時の事情があったのだろうと思うので仕方ない。ただ、ポアロの友人役で登場したブークに関するエピソードは必要だったのだろうか。おそらく1978年版が原作に近いのだと思うが(原作は未読 笑)、ブークの母親がポアロに依頼した件や、ブークが殺人を目撃していた件(結果的にこれでブークは第3の被害者となってしまう)など、1978年版との違いを出したいために改変されたのだろうか。

 

 原作ということで言えば、冒頭のポアロの戦争体験のエピソードは原作にあるものなのだろうか。子供の頃、ホームズには及ばないもののポアロものも結構数多く読んだつもりだが、そんなエピソードあったかなぁ。

 鑑賞後にネットで本作をチェックをして、ポアロが歌手サロメに惚れていた、という設定なのを知ったが、そのために冒頭のポアロと婚約者のシーンを入れる必要があったのか?

 

 トリックについて。1978年版を見た際に一番驚いたのがリネット殺しのトリック。それとともに印象に残っているのが、ラストでポアロが犯人二人を追い詰め行くシーン。ゆっくりと犯行手順を説明、そこに使用された小道具の数々のことも指摘し、最後は嘘までついて犯人を追い詰めたのではなかったっけ?本作はラストの謎解きがやけにあっさりしていたように感じたのは気のせいか。ここが一番の見せ場だったのになぁ。赤い絵の具やスカーフがなくなるシーンなど伏線として丁寧に描いていただけに、謎解きのあっさり感がちょっと残念だった。

 トリックといえば、「オリエント急行殺人事件」で私が勘違いしていた、犯行時にポアロが眠らされていたのは、やはりこちらの「ナイル」の方だったのね。確認できました(笑

 

 そうそう、1978年版はラスト、ポアロの粋なセリフで終わるのだが、それもなかったにも残念。「女の大いなる野望は男に愛を吹き込むこと」。あぁ久しぶりに聞きたかった。

 

 ここまで書いてくると、やはり1978年版をもう一度見たくなってしまったなぁ。

 

キャノンボール

●710 キャノンボール 1981

 アメリ東海岸から西海岸まで5000kmを車でいかに速く走るかを競うキャノンボールが開催されることに。JJとビクターは他の参加者を出し抜くために救急車で出場することを思いつく。他の参加者は、007、コンピュータを積載した車を開発した東洋人チーム、神父のコンビチーム、美女二人のチーム、アラブの石油王、バイクで参加する社長など。一方、話を聞きつけた安全推進委員のフォイトは参加者を交通違反で捕まえようと必死になる。

 JJとビクターは救急車にのせる医者を探すが、見つかったのは肛門科の医者だった。仕方なくJJはドクターを乗せレースに参加する。

 パブに参加者が集まり、1台ずつスタート。JJたちは途中事故車を発見、そこにはレース前にJJが口説こうとしていたカメラマン、パメラがフォイトと一緒にいた。JJはパメラだけを乗せ出発。

 交通ルールも速度制限も守らない参加者たちは警察に追われる。また参加者同士の妨害工作もあり、JJたちも遅れを取りそうになる。フォイトは参加者たちが通る道で検問を始めるが、JJたちは大型トラックに乗せてもらい検問を通過する。

 レース終盤、道路が工事のため封鎖されており、参加者たちはその前に集まり始める。そこへバイクの暴走族の集団がやってきて、バイクで参加していたチームを拉致しようとする。それを見た他の参加者たちは彼らを助けるために、暴走族たちと大乱闘となってしまう。

 やがて工事の終了が告げられ、参加者たちはレースに復帰。一斉にゴールを目指す中、JJたちの車は遅れを取ってしまう。しかしビクターはキャプテンケイオスに変身、一気に他の参加者たちを抜き去りトップでゴール前へ。JJは他の参加者たちを食い止め、キャプテンケイオスがトップでゴールに入るかと思われたその時、海に落ちたと騒ぎ出した女性の声を聞き、ケイオスは海へ飛び込んでしまい、美女チームに優勝をさらわれる。ケイオスは海に落ちた犬を救い出し、JJの元へ。JJは怒りキャプテンケイオスにはもう変身するな、と叫ぶが、ビクターはそれならばと、キャプテンUSAに変身するのだった。参加者たちはレース終了を祝い皆で祝杯をあげる。

 

 おそらく40年ぶりぐらいに観賞。レースそのものを観る映画ではなく、あまりにバカバカしいレースの展開を楽しむ一本だったことを思い出した。

 豪華な出演陣も忘れてはいけない。バートレイノルズ、ファラフォーセット、ディーンマーチンにサミーデービスJr、ロジャームーアにジャッキーチェン、マイケルホイ。チョイ役でピーターフォンダまで出演している。ロジャームーアは007そのものだし、ジャッキーチェンも終盤の乱闘シーンでその活躍を見せるなど、見せ場もいっぱい。エンドロールでこの豪華俳優陣のNGシーンが流れるが、ホントに皆楽しそうだ。

 今回はTV放映が吹き替え版だった。豪華さで言えば、吹き替えの声優も負けていない。広川太一郎羽佐間道夫石丸博也富田耕生内海賢二小原乃梨子。70年代、80年代のアニメや吹き替えといえば、このメンバーだよなぁ。懐かしい声がいっぱい。

 

 あぁ昔はこんなバカバカしい映画があったんだなぁ(笑 wikiによれば、この映画は公開された時に、「レイダース」よりも興行収入が上だったらしい。そう言えばこの映画の主題歌をよく聞いたなぁ。

 

鬼平犯科帳 第1シリーズ #23 用心棒

 ●鬼平犯科帳 第1シリーズ #23 用心棒

https://www.fujitv.co.jp/onihei/photo/s1-23.jpg

 味噌問屋佐野倉にゴロツキが来て店頭で因縁をつけていた。店の者は用心棒高木軍兵衛に頼み、ゴロツキたちを追い払う。この頃江戸の治安は悪く、裕福な商家は用心棒を雇っていた。高木も唐津藩浪人だったが、用心棒として佐野倉に雇われていた。

 その頃粂八は盗賊馬越の仁兵衛の盗人宿を見つけたと鬼平に知らせにくる。盗人宿は今戸の船宿舟長だった。舟長の向かいの蕎麦屋で忠吾が見張り役をしていた。舟長に仁兵衛が入るのを見た忠吾は粂八の帰りが遅いのを気にして、蕎麦屋に使いを頼み、そば屋の吉蔵が役宅へ走ることに。

 夜、盗賊改方が舟長に押し入るがもぬけの殻だった。吉蔵が舟長に知らせたと思われた。その頃仁兵衛一味は舟で逃げていた。そこには吉蔵もいたが、彼は舟長にいる博打仲間が捕まるものと思って知らせたのだが、彼らが盗人だと知らされ殺されてしまう。

 佐野倉の内儀は軍兵衛のことを気に入っており、36歳ならば所帯を持たせようと考えていたが、番頭が軍兵衛は店の女中おたみに気があるようだと話す。軍兵衛はおたみにヒゲを剃った顔を見たいと言われ指切りをしていた。その様子を手代の文六が見ていた。

 鬼平は浪人姿になり仁兵衛の足取りを追う。そして五鉄で粂八からも仁兵衛の足取りが消えたと聞く。鬼平は仁兵衛が江戸を売ったのではと考えるが、粂八は仁兵衛は仕事に時間をかける執念深い男なのでまだ江戸にいるはずだと答える。

 軍兵衛は手代文六の集金に付き合う。二人が茶屋で休んでいると浪人が1両を賭けての勝負がしたいと持ちかけてくる。実は剣の腕がからっきしの軍兵衛は持ち合わせがないと断ろうとするが、文六が代わりに1両出して勝負を受ける。軍兵衛はコテンパンにやられてしまい、文六は1両を取られてしまう。軍兵衛は文六に店の者にはこの事は黙っていれくれと頼む。軍兵衛が弱いことがバレれば用心棒として店に置いてもらえなくなるためだった。文六は軍兵衛の願いを聞き入れ、店に帰っても怪我をしたのは大勢の浪人から集金した金を守るために戦ったからだと皆に話す。その夜、軍兵衛の活躍を祝い宴が行われる。軍兵衛は文六に礼を言い、アンタのためなら命も賭けると話すと文六はそのうち死んでもらうかもと答えほくそ笑む。

 夜、文六は出かけある家へ。そこは仁兵衛たちの新たな盗人宿だった。文六は一味の引き込み役として佐野倉に入っていた。仁兵衛に軍兵衛が実は弱いことを伝える。用心棒がいたため計画が遅れていた仁兵衛はそれならばと計画を急ごうとするが、文六は軍兵衛を上手く利用することを思いついていた。

 軍兵衛はおたみに治療をしてもらっていた。そしておたみが叔父の家に行くのについていくことに。道中、武士たちのケンカを目撃する。そこにいたのは例の浪人2人で、若い侍に1両で立会いを申し込んでいた。おたみは軍兵衛に助けるように言うが、軍兵衛は腰が引けていた。そこに浪人姿の鬼平が現れ、浪人2人をあっという間に倒してしまう。見ていた人々は五鉄で見かける浪人だと話す。軍兵衛は鬼平を追いかけ名前を聞く。鬼平は上州浪人木村平九郎だと答える。

 店に帰ったおたみは軍兵衛に怒っていた。若者が絡まれたのを軍兵衛が助けようとしなかったためだ。そこへ文六が来て一緒に出かけることに。行った先は仁兵衛たちの盗人宿。そこで文六は軍兵衛に店の蔵の鍵を持ち出して欲しいと頼む。蔵の鍵がどれかは主人と番頭と軍兵衛しか知らなかった。軍兵衛が断ると仁兵衛や手下たちが現れ、軍兵衛はボコボコにされてしまう。さらに文六から手伝わないなら軍兵衛の本当のことを店に話してしまうと脅される。

 店に戻った軍兵衛は蔵の鍵を持ち出す。文六はそれで型を取る。それをおたみが盗み見ており、事情を聞こうとするが軍兵衛は何も答えられなかった。

 鬼平は役宅で村松に味噌味の深川めしを作らせ食べていた。村松深川めしは醤油味こそだと言い出すが、そこへ久栄がやって来て、鬼平に五鉄から急の使いが来たことを知らせる。鬼平は五鉄へ。そこに待っていたのは、軍兵衛とおたみで木村平九郎に会いたいとのことだった。二人は事情を平九郎に話す。平九郎は文六は盗賊の引き込みだと話し、自分で相手を倒せばと答えるが、お民が軍兵衛は実は弱いと話し、平九郎に助けを求める。平九郎は軍兵衛に盗人の頭の名前を聞き、それが馬越の仁兵衛だと知る。

 一味は文六の取った型から合鍵を作ることに。鬼平は佐野倉周辺の地図を元に盗賊たちの逃走ルートを検討、しかし基本的には自分一人で盗賊たちと相対すると与力たちと打ち合わせをする。鬼平は平九郎の姿となり、軍兵衛の長屋で待機することに。二人は酒を飲んで時間を潰す。翌日文六は軍兵衛に今晩盗みに入ると告げる。その夜も平九郎と軍兵衛は酒を飲む。軍兵衛は盗賊たちが来ることを恐るが、平九郎は自分も、そして盗賊たちも怖いのだと話す。そこへ一味がやってくる。鬼平と軍兵衛が一味と対決する。鬼平が一味を、逃げ出したものたちは控えていた盗賊改方が捕らえる。軍兵衛は文六と一対一の勝負となり見事に倒す。平九郎は軍兵衛にこれは皆軍兵衛一人でやったことにしろと言い残し去っていく。

 翌日軍兵衛は嘘をつけないと言い出すが、おたみはそれを止め、これから強くなれば良いと話す。そこへ長谷川平蔵が来たと知らせが入り、軍兵衛は会うことに。しかしそこにいたのは平九郎だった。驚く軍兵衛に鬼平は暇があるなら剣術の稽古をしろ、道場を紹介すると話す。その後、軍兵衛は坪井道場へ通うことに。

 後年、鬼平のことを聞かれた軍兵衛は必ずこう答えたという。

 『長谷川平蔵様という人は、つまり、怖くて優しくて暖かくて思いやりがあって、そして何よりも怖いお方じゃ』

 

 

 初見時の感想はこちら。あらすじを追加した修正版。

 

 鬼平が、実際には弱いのにそれを隠して用心棒を務める浪人を助ける話。シリーズでは鬼平が盗賊と仲良くなったりする話はあるが、本作はちょっと異例かも。

 佐野倉の用心棒である軍兵衛が弱い、という設定が良い。序盤終わりでそれが明らかになる。ここからはシリーズには珍しいコミカルな展開となる。冒頭のゴロツキこそ追い返すことに成功するが、手代文六と出かけた先でケンカを売られる。しかも金がないことを理由に断ろうとする軍兵衛に、文六が金を出すと言ってケンカを受けることになり、あっさりと負けてしまう。これだけでも笑えるシーンなのだが。

 その後、惚れているおたみと出かけた先で同じ相手を見かけてしまうことに。おたみは軍兵衛が強いと思っているので若侍を助けてあげてといわれるが、軍兵衛は尻込み。通常のドラマならこのシーンは、見ているのこちらも恥ずかしさを覚えるようなシーンなのだが、なぜかこの話では笑ってしまう。ジョニー大倉さんの気弱な軍兵衛ぶりが見事なのだ。

 

 その後軍兵衛は、盗賊の引き込み役だった文六に良いように使われるが、それを偶然目撃したおたみの進言によって、木村平九郎こと鬼平に相談し、無事事件は解決する、というめでたい結末。そうそう、おたみ役の森口瑤子さん。この時24歳らしいが実に可愛らしい。森口さん寅さん映画がデビュー作なのね。wikiで初めて知った。その作品もう一度見てみよう。

 

 少し気になったのは、木村平九郎に化けた鬼平が軍兵衛とともに長屋で酒を飲みながらした会話。軍兵衛は盗賊一味との対決を怖がっており、それに鬼平が自分も怖いし、盗賊たちも怖いと思っている、だから奴らは徒労を組んでいるのだ、と語る。その先を続けようとした鬼平だったが、その時盗賊たちが現れた気配を察知し話をやめてしまう。自分も盗賊たちも怖いと感じている、でその先鬼平は何を語ろうとしたのだろう。だから軍兵衛も恐れるのは普通なのだ、とでも言うつもりだったのか。

 

 全体的にコミカルな話だったが、終盤前に役宅で村松深川めしについて議論をしていた鬼平も良かった。味噌味を押す鬼平と醤油味だと断言する村松鬼平は幼少の頃家を飛び出し飲まず食わずの時に作ってもらった味噌味の深川めしが忘れられないと話すのだった。

 

 ゲストとしては記憶に残るキャラだった軍兵衛、第7シリーズで再登場するのだが、それはまた先の話。

 

 

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あきない世傳 金と銀11 風待ち篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀11 風待ち篇 高田郁

 江戸本店8周年の日にお梅と梅松の結婚式が行われる。年が明け江戸が大火事に見舞われる。幸は寄合で仲間に型染めの技術を教え、火の用心の柄を売り出すことに。一方、音羽屋の陰謀で綿が買い占められたり、歌舞伎が流れたりするが、富五郎の協力で簪は売れ始める。五鈴屋に砥川がやって来て、力士の浴衣を発注、寄合仲間と協力し一斉に力士の名前が入った浴衣を売り出す。そして寄合仲間が呉服太物としてお上へ申請をすることに。

 

 以下の12章からなる。

 

1章 咲くやこの花 1759年

 五鈴屋江戸本店8周年を迎える

 来年宝暦十年辰の年に災いが起こるという噂で、正月の寿ぎを盛大に

 8周年の日にお梅と梅松の結婚式が開かれる

2章 十年の辰年 1760年

 五年前に店に来た下野国呉服問屋の商人が、綿栽培が盛んになったと知らせにくる

 菊栄 売りに出す簪が完成、4本を持ち帰る

 2月 江戸大火事に 噂が本当になる

3章 日向雨

 火事で歌舞伎小屋、日本橋音羽屋が全焼

 幸 井筒屋〜惣次に会いに 音羽屋証文が焼ける、結は無事だと聞く

 幸 五鈴屋の商品が品薄の町で倍の値段で売られていることを聞き確認に出向く

 幸 結と再会、しかし結は幸に怒りの表情を見せる

4章 英断

 菊栄 簪職人たちに火事で失った分の代金も支払うと約束

 幸 菊次郎から親和文字の存在、音羽屋が太物に手を出すこと教えてもらう

 幸 太物寄合で、型染めの技術を皆で共有し、火の用心の柄を売り出したいと話す

 お梅の飼っている小梅に子供ができる

 吉次の女道明寺の舞台が、音羽屋の横槍で流れる

5章 万里一空

 音羽屋再建、安値で木綿を売りに出す

 大阪からの手紙で、綿の不作、買い占めが行われていることを知る

 勧進相撲が行われる

 木綿不足のため、河内屋が寄合仲間に白生地を融通すると話す

6章 悪手、妙手

 霜月朔日に一斉に火の用心柄を売り出すことに しかし型染めの技術が漏れる

 霜月朔日 市村座音羽屋の型染め浴衣が披露される

 一連のことが音羽屋の仕業だと判明するが、それは悪手だと菊栄が話す

7章 錦上添花

 霜月朔日 火の用心柄が売れ始める 市村座で披露された柄も音羽屋で売り出す

 富五郎が江戸に戻り、いつかの借りを返したい、菊栄の簪を借りたいと話す

 富五郎、吉次とともに舞台で女道成寺の一幕を演じ、菊栄の簪を使う

8章 天赦日の客 1761年

 五鈴屋江戸本店9周年、いつも来る夫婦の客が店に顔を見せず 

 菊栄の簪が富五郎のおかげで売れ始める

 寄合で下野国の綿栽培が話題に 恵比寿屋が調べにいくことに

 2月 開店記念日に来る夫婦の男性がやって来て、砥川額之助と名乗る

 砥川は今年の勧進相撲の際に、力士全員に藍染め浴衣を着させたいと発注をする

9章 深川へ

 賢輔が力士の浴衣の図柄を考え始め、力士の名前を親和文字で入れることを思いつく

 書士親和先生に事情を説明し、力士の名前を書いてもらうことに

10章 土俵際

 幸 砥川に力士の名前を図柄にし、その浴衣を店でも売り出すことを了承してもらう

 幸 寄合でそのことを報告

11章 三度の虹

 梅松、誠二の型紙作りが佳境に 

 駒形町呉服商丸屋が店に客として来店

 型紙が出来上がり、染めに入る

 8月 火事で歌舞伎小屋が焼ける 五年で3回目

12章 触太鼓

 神無月十一日 力士浴衣を一斉に売り出すことが決まる

 勧進相撲が始まり、浴衣が爆発的に売れる

 寄合 丸屋が仲間に入る提案を受け、河内屋が自分たちが呉服太物仲間となることを提案

 

 シリーズ11作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。

 前作終わりでお梅の結婚が決まり、五鈴屋も型染めの太物が売れ、全てが良い方向へ進み始めた。著者の作品のファンとしては、本作でまた揺り戻しが起こるのではと思っていたら、案の定江戸が大火事に見舞われてしまう。五鈴屋は直接的な被害を被ることはなかったが、間接的に物が売れない状態に。さらに綿の入手が困難になってしまう。それでも幸はピンチをチャンスに変えるべく、寄合仲間に型染めの技術を伝授、庶民の願いを込めた火の用心の柄を売り出すことに。

 さらに毎年開店記念日に訪れていた上品な夫婦の客が、勧進相撲の関係者だと判明、力士のための浴衣の発注を受ける。賢介をはじめとした店の皆で、力士の名前入りの浴衣を作ることを思いつき、それを寄合仲間達と一緒に売り出すことに。

 

 全てがうまくいき始めた五鈴屋。一緒に頑張って来た菊栄の簪も売れ始める。

 菊栄といえば、型紙作りに熱中しすぎる梅松をお梅が非難した際に、菊栄がお梅にかけた言葉も見事だった。あまり笑いの多いシリーズではないが、この場面は流石に笑わせてもらった。

 

 そしてラストの河内屋のセリフ。仲間入りしたいという丸屋の提案を受け、呉服太物となることの申請を、と話す。丸屋のためだけかと思いきや、本作で皆のために行動を取った五鈴屋への恩返しとして、というセリフはシリーズ屈指の名セリフだった。富五郎が亡き智蔵を思って語ったセリフと双璧である。久しぶりに本シリーズで涙することになってしまった。

 

 いよいよシリーズも残すところあと2作。ラストの河内屋のセリフを読むまで、五鈴屋の呉服売りへの復帰は完全に忘れていた。これがシリーズの最後を締める大きな動きとなるのだろう。また火事にあい全てを失ったはずの音羽屋の無謀な買い占めはどう影響してくるのか。火事で店を失っても幸への敵対心むき出しだった結はどうなるのか。

 最後まで目が離せない展開になるんだろうなぁ。

 

 

 

 

銭形平次捕物控 女狐屋敷

●709 銭形平次捕物控 女狐屋敷 1957

 海で祭りが行われ観客は船に乗ってそれを楽しんでいた。八五郎は知り合いのお半が船に乗っているのを見て喜ぶが、その船がひっくり返ってしまい、八五郎はおはんを助けるために海へ飛び込む。しかし八五郎は泳げずお半に助けてもらう始末だった。

 藤間勘美津の社中大さらいが行われる。美濃屋の娘もそれで出ていた。その裏で美濃屋は天心教の赤座と話をしていた。天心教教祖がご託宣をしており、祭りでの水難を予言していた。さらにご託宣では剣難の相が出ているとのことだった。

 舞台では芸者染次が師匠勘美津と一緒に踊りを披露する。しかし踊りに使われていた鎌が本物だったため、染次は死んでしまう。

 同じ頃豆腐屋六兵衛は持病で苦しみ始める。しかし天心のお水を飲めば不思議と治るのだった。妻おさつは水をもらいに行き、娘おみよは六兵衛を見守る。

 その頃三ノ輪の親分が染次殺しの現場を調べ勘美津を殺しの下手人としてえ捕まえようとしていた。女目明しのお品も現場へやってきて、当日楽屋に出入りした人間としておさつとおみよがいたことを聞き出す。六兵衛はおさつが貰ってきた天心の水を飲み、回復する。

 天心教本部。六兵衛は赤座に対し、お水を飲めば症状は良くなるが、一向に病気が治る気配はない、お布施として出した金を返して欲しいと訴える。しかしお布施を返してもらえないと知り六兵衛は怒って帰っていってしまう。一方教祖はご託宣として、染次殺しは君香の仕業だと話す。

 六兵衛が川で死体となり発見される。お品と卵之吉は死体を調べ、心と書かれたの鏡を発見する。その頃、君香が毒を飲んで自殺する。しかしそれはご託宣通りだと皆は信じ驚かなかった。お品と卵之吉は夜道で男たちに襲われ、六兵衛が持っていた鏡を寄こすように言われる。争いになるが、そこへ平次が現れ男たちを一蹴する。

 美濃屋の主人が具合が悪くなり店に帰るなり床につく。勘美津は君香が犯人だとされたため釈放され、事情を聞く。しかし勘美津は君香が犯人だという話に疑問を持つ。六兵衛の葬式が天心の大宮司お滝により行われる。おさつは感謝するが、娘おみよは天心が父親を殺したと考えていた。

 平次は八五郎と将棋を指していた。そこへ美濃屋の娘がやってきて、父親が天心教教祖に二十六夜の月の日に龍に噛まれて死ぬというご託宣を受けて弱っていると話す。美濃屋は商売が上手くいかず奉公人も返した時、教祖がやってきて材木を買い占めるように話しその後江戸に大火事があり美濃屋はそれで息を吹き返したため、美濃屋は天心教のために屋敷も建てた間柄だとも話す。しかし平次は何も言わずに美濃屋の娘を帰してしまう。そこへお品がやってきたため、平次は頼み事をする。

 平次は天心教のことを調べたいと笹野に話す。笹野は采配違いもあるが、大奥のお蓮の方が天心教を信仰していると話す。天心教の屋敷では教祖がお蓮の方と酒を酌み交わしているのをお滝が盗み見ていた。お滝は教祖に惚れており嫉妬するが、それを聞いた赤座はお滝を戒める。

 勘美津がお参りをしていると平次がやってくる。そして染次殺しについて話を聞こうとすると男たちが二人を襲う。平次は戦いなんとかその場から逃げる。

 その頃天心教の屋敷へ八五郎へ信者のふりをして潜入していた。八五郎は倒れそうな老人が屋敷の奥へ行き、帰りには元気になっている姿を目撃する。男たちから逃げた平次と勘美津は船に乗り話をする。勘美津は対馬国武家の娘だったが、父親が目をかけた浪人に殺されたため仇討ちのため江戸にきている、相手はご法度である芥子で薬を作っておりそれを咎めた父親を殺し殺し逐電した、浪人の名は赤間新兵衛という。

 ご託宣の二十六夜がやってくる。平次は美濃屋の屋敷の守りを固めその時を待っていた。しかし美濃屋は女中おもとが薬を入れた水を飲んでしまい、時が来て叫んで龍の絵が描かれた屏風に突っ込んで死んでしまう。平次は女中のおもとを捕まえる。

 その頃天心教の屋敷では赤座が蓮華往生の儀式を行なっていた。選ばれた老人が蓮華の中に入ると下から槍で刺されて死んでしまう、という儀式だった。

 平次は笹野に会いに行くが、天心教が大奥へ参内することが決まり、それを止めに笹野が行っていて留守だった。平次は家へ戻り、お静に簪を渡し出かけて行く。お静は平次の覚悟を感じて取っていた。

 天心教の屋敷にお蓮の方がきて教祖と一緒だった。それを見たお滝はまたも嘆く。それを聞いた赤座はお滝を刺し殺す。平次はご託宣をもらいたいと赤座に会う。そして一連の事件の犯人が天心教だと話し、その動機も語る。しかし巫女に化けていたお品が囚われており、平次は十手を捨てさせられ捕まってしまう。

 その頃笹野が屋敷に戻り、平次からの手紙を受け取理、事件の真相を知る。

 平次は蓮華往生の儀式をさせられる。しかし開いた蓮華から平次は無事な姿を見せる。囚われていた八五郎やお半、お品に卵之吉も含め大乱闘となる。勘美津は父の仇である赤座を倒し、教祖も自害する。そして笹野が町方を連れて天心教の屋敷に踏み込んでくる。

 事件が終わり皆で海岸で地引網を楽しんでいた。そこへ八五郎が笹野からの手紙を持ってくる。そこにはゆっくり静養しろと書いてあった。

 

 BS12で放送された「銭形平次捕物控」シリーズをこれで全て観たことになる8作目。20本近く製作されたシリーズの中盤の作品。

 本作は、ニセ宗教が敵となる、現代にも通じそうな話。御宣託(予言)が当たることをウリにしつつ、病気持ちの信者に麻薬の入った水を飲ませて一時的に症状を軽くすることで信頼を得ていく、ニセ宗教天心教。御宣託の中には、人殺しの犯人も含まれており、それも一味の手の者が工作をして…という怖い話。

 

 ネットのレビューで、「豪華な女優陣」と書かれており、確かに大勢の女優が登場する。踊りの師匠、殺される共演者、父を宗教に殺される娘、教祖の元で働く宮司、教祖に惚れ込んでしまう大奥の女性。女目明し。しかし昔の女優さんのため、いまひとつピンとこない方ばかり。

 そのため、冒頭から出てくる多くの女優さんの区別がつかず、話の展開がよくわからなかった(笑

 

 一連の事件のおさらいのためにメモ。

 踊りの師匠と共演していた芸者が、小道具の鎌が本物だったため殺される。鎌をすり替えたのは、殺された芸者が好き合っていた若旦那に嫉妬した女性、というのが犯人の筋書き。〜すり替えたのは教祖の手下の女中おもと。

 その踊りの場にもいた豆腐屋の娘の父親が宗教を信じていたが、症状は軽くなるものの病気が治る気配がないため、お布施を取り戻そうとして殺される。〜症状が軽くなるのは、麻薬入りの水を飲んだためで、病気を治療しているわけではない。

 美濃屋の主人は御宣託で死を予言され、その娘が平次に相談。平次は美濃屋の警護に当たるが予言通りに主人が死んでしまう。〜これも教祖の手下の女中おもとが毒薬を主人に飲ませたため。

 

 笑ったのは、蓮華往生の儀式。この儀式だが、信者の老人が大蓮華の中に入るが、下から槍で刺されて死んでしまうというもの。なんだそりゃ?と思うが、一応「往生の儀式」なので死んでしまっても仕方ないというものなのか(笑 さらに可笑しいのは、お品が人質にされたため捕まった平次をこの蓮華往生の儀式で殺そうとする一味。いやいや、普通に殺せば良いでしょうよ。まぁここがこの映画の見せどころなのだろうけど。

 しかし儀式をクリアした平次だが、その直前に捕まった際に十手を捨てているため、乱闘となってもある武器は銭のみ。武術らしい技で悪党どもを投げ飛ばし、トドメは銭を投げるのだが、迫力不足は否めない。

 

 このシリーズの定番として、平次が上役笹野の前で、悪人を捕らえるためには身を捨ててでも、というシーンがあるが、本作ではそれだけでは足りないと考えたのか、平次が敵の本拠に乗り込む前に、妻であるお静に簪を買って帰り、それを渡して家を出ていくというシーンがある。平次がお静にプレゼントをするというのが珍しいため、お静は平次の覚悟をそれで感じ取り涙する、というシーンへつながるのだが、本作だけここまで覚悟を決めて臨む平次、というのに観客は違和感がなかったのだろうか。まだまだ浪花節の世界が当たり前の世の中だったのかしら。

 

 一番驚いたのは、終盤の大乱闘シーンでの一コマ。先に書いたように平次が一人大奮闘するシーンが続くのだが、ある場面で平次が悪漢たちに圧倒されてしまう。と思ったらそこへ平次が助けに入る。えっ?だったら先に襲われていたのは誰?と思うのだが、それは女目明しお品の子分、卵之吉だったとすぐに気づく。あぁそうだったのね、と思ったのだが、観終わった後に調べたら、この卵之吉役の林成年さん、長谷川一夫さんの実の息子さんなのね。道理でよく似た二枚目の役者さんな訳だ。

 

 前にも書いたが、TVがまだ普及する前の昭和30年代の映画。御都合主義のストーリーや無理のある立ち回りなど多いが、このような映画が大衆娯楽作品だったのだろう。

 

 

探偵はBarにいる3

●708 探偵はBarにいる3 2017

 トラックの運転手が食堂で若い女性と会い、二人はトラックに。道路の先に車が止まっていたため、運転手は拳銃を持って車に近づくといきなり射殺されてしまう。犯人はトラックの荷台の荷物の毛ガニを自分の車へ移し替える。

 その頃探偵の俺はクラブで停電中に店の女性の胸を触った犯人を教頭だと推理で突き止めていた。そこへ高田が後輩原田誠を連れてやってくる。

 誠は俺に彼女である諏訪麗子を探して欲しいと依頼してくる。麗子は突然行方不明となり携帯でも連絡がつかないとのことだった。俺と高田は誠を連れ麗子の部屋へ。家を調べ麗子が金回りがよかったこと、実家には帰っていないこと、ピュアハートという所からの多額の振込があることを突き止める。

 俺は情報屋の客引きにピュアハートのことを尋ねるが彼らは何も知らず。ただ店で騒ぎを起こした教頭が風俗王として知られているので彼ならば何か知っているのではと言われる。教頭からピュアハートがいかがわしいモデル派遣事務所だと聞いた俺はピュアハートへ。そこで麗子の写真を見せるが店員は何も知らないと答える。店の中を探索しているのを見つかった俺だったが、その場にいた女性に救われる。

 ピュアハートのことを飲み屋で高田に話し店を出ると男たちに襲われる。その中には波瑠という男もおり、高田も叶わないほどの強敵だった。俺は男たちの一人、工藤に麗子を調べているのはなぜかと問われケツを刺される。そこへ店にいた女性、岬マリがやってきて俺を助け、自分たちも麗子を心配し探していると話す。

 俺は相田にピュアハートのことを聞こうとするが、またも拉致され真冬の海で船の先頭に縛られパンイチで晒される。相田によれば、ピュアハートは花岡組の息がかかった北城仁也の組織で、密輸した毛ガニを奪われて血眼になって犯人探しをしているとのことだった。相田の桐原組も疑われており、俺は北城には手を出すなと忠告される。

 俺は新聞記者の松尾から北城がおもての世界では経済界のホープとされていること、毛ガニを奪った犯人は足跡から大柄の男だったこと、運転手椿は北城の右腕と呼ばれた男だったが北城と上手くいっていなかったこと、椿が若い女性と一緒だったこと、を聞く。俺は麗子が椿の事件に関係しているらしいと考える。

 俺と高田はピュアハートに侵入、PCから麗子が店のモデルとして働いていたことを知り、マリを張り込む。するとマリは隠れて暮らしていた麗子の家を訪ねる。俺も麗子に会い話を聞くが、北城たちに拉致されてしまい、もう事件に関わるなと忠告される。

 俺はマリのことを思い出す。以前風俗嬢だったモンローの店で働いていた若い女性がマリだった。俺はモンローに会いに行き、マリのことを尋ねる。マリは両親に死に別れたあと男ができ妊娠したが子供を失って自暴自棄になっており、自分の命も軽く考えるような女だった。俺はマリに自分が燃えるような何かを見つけろとアドバイスしていた。

 波瑠は工藤に家へ。しかし工藤は何者かに射殺されていた。俺は松尾から工藤殺害の情報を聞く。工藤は北城の麻薬を盗んだと思われたが、麻薬は見つかっていない。工藤の家に椿殺害現場にあった足跡と思われるブーツが見つかったがいかにも過ぎるとのこと。俺は相田に会い、北城が麻薬を探していること、マリはお金に執着していることを聞く。

 俺は街中でマリと出会う。俺は一連の犯行は全てマリの仕業だと話すが彼女は何も言わなかった。俺はマリと一夜をともにし、彼女が薬を飲んでいることを知る。翌朝マリは去った後で、100万円とともに依頼を引き受けてくれてありがとうとのメッセージが残されていた。そこへ波瑠たちがやってきて俺は北城の店へ連れていかれる。

 そこで麻薬のありかを聞かれ、マリにも裏切られる。しかし高田が救出にきて、マリとともに逃げることに成功する。俺はBarでマリに怒るが、マリは改めて俺に協力を依頼してくる。マリは麻薬を北城に1億円で売りつけるつもりだった。

 俺とマリはトークショーが行われているショッピング施設へ。そこで北城と取引をする。そして金を持って逃げようとしたとき、マリは金を俺に託し、拳銃で場内を混乱に陥れ、北城を殺そうとする。しかし警備に来ていた警官に捕まってしまう。金を持って逃げた俺は北城たちに捕まり金を奪われてしまうが、バッグをすり替えており金は無事だった。

 マリは捕まり麗子も誠の元へ帰ってくる。マリに殺されそうになった北城の店にも操作が入り北城は逮捕される。俺はマリに依頼された病院へ。そこである少女の治療のために1億円を使うことになっていた。俺はその少女がマリの実の娘だと考えたが、少女は何も関係のない少女で、マリが入院していたとき偶然知り合っただけの仲だった。俺はマリのことを考え、彼女がいつかの日か出所し自分の前に現れるのを待とうと思うのだった。

 

 シリーズ第3作にして、現在のところ最終作。

 謎そのものがミステリアスだった第1作、展開が比較的単純だった第2作だったが、本作も前作第2作同様、事件の展開がわかりやすい。冒頭で恋人を探して欲しいと頼まれた探偵である俺が、毛ガニ密輸に絡む殺人事件に巻き込まれていくというもの。

 もっと言ってしまうと、本作は謎が提示されるもののそれが次々と明かされていくイメージ。麗子はマリが匿っていることがすぐに判明するし、一連の毛ガニ〜麻薬強奪もマリの仕業だと早めに明らかにされる。つまり、謎は数多く提示されるのだが、観客がそれを考える間もなく、解決されてしまうのだ。そのため謎解きという意味ではあまり面白くないと感じる。

 

 それでもシリーズ3作目ということもあり、定番パターンとなったシーンはやはり面白い。情報屋でもあるヤクザ相田に俺が拉致されるシーン〜今回は船の先頭でパンイチに、その相田が所属する桐原組組長との短い会話シーン、喫茶店の峰子との絡み、俺と高田の乱闘シーン〜今回は強敵波瑠と高田との格闘が見もの、など。

 

 第2作でラストについて文句を書いたが、本作を観て、このシリーズはラストにヒロインの独白を持って来るのがパターンなのだと気づいた。前の2作に比べると、ヒロインの取った行動は共感ができにくいものだが、そこは昔俺がマリに話した会話のシーンがあるため仕方なし。

 

 本作を観終わった後、劇場公開当時の主役の二人、大泉洋松田龍平のインタビュー記事を読んだ。本作は脚本の出来に納得がいかなかった大泉洋が脚本を練り直した結果、公開が2年遅れたらしい。第1作が2011年、第2作が2013年、本作が2017年公開なのはそういった理由のようだ。ということは2019年に第4作があってもおかしくないのだが…。

 物語終盤、相棒である高田の学校の移籍の話が明かされ、シリーズの終わりを匂わせるが、映画の本当のラスト〜エンドロールの後、それに関するオチが明かされる。このオチがあったということは、製作陣はまだまだこのシリーズを続けるつもりがあったということなのだろう。しかし第4作が製作されていないのは、やはり大泉洋が大物になり過ぎたからなのだろうか(笑

 

 いつか第4作が作られることを期待しておこう。