ニューヨーク東8番街の奇跡

●569 ニューヨーク東8番街の奇跡 1987

 ニューヨークのイーストサイド。業者レイシーによる再開発が計画され、立ち退いたビルが次々と取り壊されていた。そんな中、古いアパートが1棟残る。1Fでカフェを営むリリー夫婦を始めとする住人たちは、立ち退きを迫る地上げ屋のチンピラ、カルロスたちの嫌がらせを受けていた。

 嫌がらせに負け、お金をもらってアパートを出て行く住人たちが出て、居残ったのは、ライリー夫婦、恋人に逃げられた画家、お腹の子の父親であるミュージシャンを待ち続ける妊婦、無口な元ボクサーだけになってしまう。

 ある日、カルロスがライリーの店をめちゃめちゃに破壊してしまう。店の主人で夫のフランクは、誰か助けてくれと呟く。その夜、小型UFO2機がライリー夫婦の家へ侵入。自らライリー家のコンセントで充電すると立ち去ってしまうが、壊された店を修復して屋上の鳥小屋に住み着き始める。

 他の住民もUFOのおかげで壊れたものが直っているのに気づく。住人たちはUFOが鳥小屋にいることに気づき、フランクの妻フェイはUFOたちを自分の子供だと思い世話を始める。フェイは認知症を患っていた。カルロスが店が修復されているのに驚き、またも住人たちに立ち退きを迫るが、そんなカルロスをUFOたちが撃退する。

 フランクたちはUFOを歓迎する。UFOたちは子供のUFO3機を産む。1機は産まれながらに死産してしまうが、元ボクサーハリーが修理、無事生き返ることに。

 フランクは直った店でフェイやUFOたちとともに店を始める。ビルの取り壊し業者たちも店を使い始める。カルロスは店に入り嫌がらせをしようとするが、カルロスを息子だと勘違いしているフェイは、彼に優しく対応する。

 レイシーはアパートから住人たちが立ち退かないことにイラつき始め、カルロスに檄を飛ばす。カルロスはアパートに忍び込み、配管や配線設備を壊す。それに気づき偵察に来たUFOも叩き壊してしまう。住人たちはカルロスを追い詰め、ハリーがアパートから叩き出す。しかしフェイは息子が追い出されたと勘違いし、フランクを責める。

 UFOが壊れたUFOを修復している間に、子供UFOたちがどこかへ行ってしまう。フランクたちは街に出て子供UFOを探す。ハリーの機転で子供UFOたちを見つけ、そこへ修復されたUFOもやって来て、どこかへ行ってしまう。

 レイシーは工事の期限が迫ったことで、カルロスに任せるのを諦め、別の男にアパート立ち退きを命じる。男はアパートに爆発物を仕掛けるが、そこへカルロスが現れ男に気づき、二人は言い争いになる。男はアパートが無人だと思い爆発物を仕掛けたと話すが、アパートにはフェイが残っていた。それに気づいたカルロスはフェイを助け出そうと息子のふりをするが、バレてしまい一緒に逃げることを拒否される。その時爆発が発生。火事の中カルロスはなんとかフェイを助け出す。アパートは爆発炎上してしまう。

 翌日焼け残ったアパートの玄関にハリーが座り込んでいた。現場に駆けつけたレイシーはハリーを退かせアパートを破壊するように業者に命じるが、業者たちはハリーがいなくならない限り、破壊はしないと宣言する。その夜、ハリーの前にUFOたちが戻ってくる。しかもたくさんの仲間たちを引き連れて。翌朝アパートは完全に元の姿を取り戻し、マスコミも駆けつけてくる。

 しばらく後、再開発で立った新しいビルの谷間に、あの古いアパートが建っていた。

 

 スピルバーグの作品だが、全く知らなかった。タイトルを見て、あの名作34丁目の奇跡かと勘違いしていたぐらい(笑

 本作はストーリーが単純で非常にわかりやすい。立ち退きを迫られている住人たち、特に認知症を患っている妻を持つ店主、が困っているのをなぜか現れた修復能力を持つUFOに助けられる、というお話。確かに「奇跡」がキーワードで、劇中でもそんな奇跡を信じるための言葉があるが、34丁目を彷彿とさせるタイトルはいかがなものか。ただ原題が、batteries not included、電池が入っていない、というのもちょっと違う気がするし。このタイトルで仕方なしか。

 地上げ屋のカルロスが単なる悪者に描かれていないことや、主人公の一人フランクの妻フェイが認知症であることなど、スピルバーグらしさも感じられるが、総じておとぎ話系であるのは間違いない。気軽に見ることができるSFファンタジーといったところ。

 

雨燕 北町奉行所捕物控 長谷川卓

●雨燕 北町奉行所捕物控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 北町奉行所・臨時廻り同心の鷲津軍兵衛と同期の加曾利孫四郎たちは、押し込み強盗の一味、赤頭三兄弟の隠れ家に踏み込んだ。だが、三兄弟の三男・吉三郎は一人逃げ延び、行方をくらませてしまう。岡っ引き・留松の子分、福治郎は、自分のせいで吉三郎を捕り逃したことを悔いて、肩を落としながらとある居酒屋へ立ち寄った。店の酌婦・お光と出会った福治郎は、少しずつ心を癒され、お互いの過去と素性を知らずして惹かれあっていくのだったが…。同心としての誇り、哀切、喜びが織りなす、捕物帖の傑作シリーズ、待望の第五弾。

 

 北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第5作。以下の6章からなる長編。

 「《り八》のお光」「丑紅」「内与力・三枝幹之進」「雨燕のお紋」「雪の朝」

 

 鷲津たちは赤頭の三兄弟を捕まえるためにアジトを見張っていた。彼らが出てきたところを捕まえるが、兄弟の一人吉三郎だけは逃げる。留松と福三郎が追うが取り逃がしてしまう。悔しがる福三郎は一人居酒屋り八に行き、酌婦お光と酒を飲む。

 同心小宮山が市中見廻りで怪しい男を見つける。その男富助から、賭場で万治という男が火伏せの長五郎が間も無く江戸に来るという話していたと聞く。宮脇の調べで火伏せ一味には、貞七などの子分がいることも判明する。鷲津はいつも通り、源三を使い賭場で万治を探すことに。

 事情があり仕事を外された福三郎は街をうろついていた時に偶然お光と再会、牛紅を買ってやる。鷲津は賭場で万治を見つけあとをつけ、旅籠但馬屋で何かを観ているのを目撃、さらに塒も突き止める。但馬屋には貞七が山科屋という偽名で泊まっていることもわかる。

 鷲津が火付盗賊改長官松田の屋敷へ呼ばれる。貞七のことは火付も追っており、一緒に火伏せ一味を追うことになり、火付盗賊改から樋山が鷲津たちと一緒に行動することに。そのことを島村に報告する鷲津だったが、居合わせた三枝が一緒に酒を飲もうと誘う。断りきれなかった鷲津は二人で酒を飲むが、はっきりを三枝のことが嫌いだと話す。店を出た二人は賊に襲われる。吉三郎と仲間たちだった。しかし鷲津と三枝は見事に返り討ちにする。

 万治をつけていた火付の岡っ引きが、万治がある男女を見つけているのに気づく。岡っ引きは男女もつけ、それが福三郎とお光だとわかる。貞七をつけていた面々が船宿鳴海屋にたどり着く。ここに万治がお光を連れてやってくる。お光は雨燕のお紋という引き込み女だった。お光は火伏せ一味の仲間になるように誘われるが断る。

 鷲津たちはお光をつけ、彼女が福三郎と会うのを目撃。福三郎を呼び出しお光の事を尋ね、火伏せ一味とのことも話す。鷲津はお光に全てを打ち明け、話を聞く。火盗の樋山はお光に一味の内情を探ってほしいというが、鷲津は反対する。しかしお光はその話を受ける。お光は店に来た万治に考え直して仲間になると話をする。

 旅籠但馬屋を見張っていた面々が貞七がある寮に入って行くのを目撃、ここが一味のアジトだと思われた。鷲津たちは寮を見張る。翌日お光は店の用事で出かける。その帰り道、畳問屋美作屋の軒先で働く女性を見かける。それはお甲という引き込み女で、そこが火伏せ一味が狙っている店だと気づく。しかしそれを錠前破りの丙十に見つかってしまいアジトへ連れて行かれてしまう。それを火盗の岡っ引きが目撃していた。

 鷲津たちはその話を聞き寮へ踏み込む準備をする。しかしアジトから出た万治が福三郎のことを調べ、彼が岡っ引きであることを突き止めアジトへ戻ってくる。鷲津たちは一気に踏み込み、一味たちを斬って捨てるが、お光は既に刺されてしまった後だった。

 

 前作に続くシリーズ第5作。本作は他の作品と異なり、一つの事件のみを扱う。偶然火伏せ一味が江戸に来るという情報を聞きつけ、その配下の者たちを一人ずつ突き止め、見張る。ヤツらが女と接触するが、その女が福三郎が惚れている飲み屋の女で、昔引き込みをやっていた女だった。

 事件が一つのためか、これまでのシリーズの中では話が短い。しかしサブエピソードが面白い。奉行所の三枝はこれまでも何度か登場しているが、軍兵衛が苦手としている上役。しかしその相手と一緒に酒を飲み、剣術についても会話する。それでもそこは軍兵衛、相手が嫌いだとはっきり宣言するが、店を出たところで賊に襲われ、お互いが賊を見事に斬って退ける。

 もう一つは、軍兵衛の息子竹之助の元服。名を周一郎と改めることに。竹之助が通う道場の主波多野と名の一字をもらうことになった妹尾と竹之助との会話が良い。いよいよ次回作あたりからは竹之助(周一郎)も軍兵衛と一緒に仕事をすることになるのか。

 そしてサブとは言えないエピソードが福三郎の恋。まだまだ下っ端である福三郎がひょんなことから知り合った女性。しかし引き込み女だった過去を持ち、軍兵衛たちが追う一味にも関わってしまう。そしてラスト、軍兵衛や火盗の土屋、樋山の剣が怒りを爆発させるが、お光の最期が泣かせる。

 少しずつ登場人物たちが成長をしていく本シリーズ。次回作ももちろん楽しみである。

 

 

招かれざる客

●568 招かれざる客 1967

 空港にカップルが降り立つ。男性は黒人のジョン・プレンティス、女性は白人のジョアンナ・ドレイトン。二人はジョアンナの母親が経営する店へ行き、母親に会おうとするが留守だった。店員に伝言をし、ジョアンナの家へ向かう。

 ジョアンナの家へ着くと間も無く母親クリスティが到着。母は娘が黒人と結婚をしたがっているのを聞いて驚く。そこへジョアンナの父マットも帰ってくる。父はライアン神父とゴルフの約束をしていたため、すぐに出かけようとするが、ジョアンナが黒人と結婚したがっていることに気づき、ゴルフの約束を取りやめる。

 マットとクリスティが困惑する中、ジョンは二人に両親の反対があるならば結婚は諦めると宣言する。マットは秘書にジョンのことを調べさせていたが、ジョンは優秀な医師であることが判明する。

 家にゴルフを断られた神父がやってきて事情を聞く。神父はジョアンナの結婚話喜び祝福するが、父マットが反対していることを非難する。マットは新聞社の経営者であり、差別と戦ってきた人間だったため。母クリスティは神父を夕食に招くことに。

 ジョンは夜の飛行機で次の仕事場であるジュネーブに行くことになっており、それまでに結論を聞きたいと話す。マットとクリスティは困惑していたが、母クリスティは結婚に賛成、父マットは反対の立場だった。

 ジョンが両親に電話をし結婚のことを話すと、ジョンの両親が息子の結婚相手に会いたいと飛行機でやってくることに。ジョアンナはそれを聞き、家での夕食に招待する。

 ジョンの両親が家にやってくる。父親同士、母親同士が相談をする中、ジョアンナはジョンと一緒にジュネーブに行くことにし、荷物を詰め始める。

 マットは神父から改めて説教をされるが、結婚に反対であることに変わりはなかった。しかしジョンの母から、若い頃の男性と年老いた男性が変わってしまうという話を聞き、考えを改める。

 マットは皆を集め、二人の結婚には困難が待ち構えていること、しかし二人の気持ちがあればそれを乗り越えらえるということを話し始める。

 

 タイトルは有名な言葉であり、推理小説などにも使われる言葉。しかしこの映画のことは全く知らなかった。

 アメリカの60年代の黒人差別を描いた「グリーンブック」を先日見たばかり。あちらは1962年が舞台だったが、本作もそれと同時期を描いたものと思われる(映画の公開は1967年)。

 映画はほぼ全てがドレイトン家の中で繰り広げられる会話劇と言って良い。テーマは白人と黒人の結婚、というストレートのもの。カップルのそれぞれの父が反対、母が賛成という中、ドレイトン家のメイドの黒人女性が、同じ黒人であるジョンを敵対視するのが、あまりにリアル。差別の中で戦ってきた彼女の思いがよくわかる。

 女性の父がリベラルを謳う新聞社の経営者という設定、男性が非常に優秀な医師という設定などが、二人の幸せな結末を予感させてくれるが、それでもこれだけの反対があるというのが、本当のところなのだろう。「グリーンブック」でも天才ピアニストである主人公が差別されて当然の世の中だったのだから。

 ラストのマット(スペンサートレイシー)の演説が圧巻。まるでミステリの最後に謎解きをする名探偵のごとく、だった。トレイシーといえば、このブログでは「花嫁の父」を観ているが、あちらでも娘が結婚してしまう父親役だった。この俳優さんはこの役が当たり役なんだろうか。

 全体通して、数少ない登場人物だったが、演説にメイドを巻き込むのも見事。中盤で母親が経営している画廊の従業員をあっさりクビにするのも見事だったが。

 良い映画を観た。知らない名作はまだまだあると実感。

 

舟を編む

●567 舟を編む 2013

 1995年。玄武書房の荒木は辞書編集部にいたが、定年が間近に迫っていた。辞書編集責任者の松本は荒木の定年を残念がる。荒木は後任を探し、部下の西岡の勧めもあり、営業部にいた馬締を辞書編集部に異動させる。

 辞書編集部は新たな辞書大渡海を作ることに。馬締は辞書作りに興味を示し始めるが、辞書作りにうなされる夢も見ることに。馬締が下宿する家に、高齢の大家と同居するために香具矢が一緒に住むことに。馬締は彼女に一目惚れをする。同僚のアドバイスや大家タケの助けもあり、馬締は香具矢とデートをする。会社では荒木は退職をする。

 大渡海の製作が中止になると噂が出る。西岡は先手を打って、辞書の原稿依頼を専門家に発注、その噂が出回り、製作中止は免れることができたが、売り上げに貢献しないという理由で、辞書編集部から1名外れることになる。西岡は自分が異動になることを選択、後のことを馬締に任せる。香具矢に書いたラブレターのことで馬締は怒られるが、素直な気持ちを打ち明けることで二人は付き合うことに。

 12年後の2008年。馬締と香具矢は結婚、退職した荒木も嘱託として職場に復帰していた。大渡海の製作は大詰めを迎えていた。久しぶりの新人岸辺も配属となる。しかし松本の体調が悪い状態が続く。馬締は製作を急ぐが、単語の欠落が見つかってしまい、仕事をもう一度やり直すことに。そんな中、松本が入院。辞書完成の前になくなってしまう。

 翌年辞書は完成、披露パーティーが行われる。松本の死に間に合わず落ち込む馬締に荒木が松本の手紙を見せる。そこには荒木や馬締への感謝の言葉が記されていた。

 

 数年前に観た記憶があり、ざっくりとしたストーリーを覚えていたので気楽に観ることができた。

 映画ではこのような全く知らない世界を覗くことができる1本があるが、まさにこれはそんな1本。辞書作りの難しさ、時間であったり作業量であったり、が本当によくわかる。終盤、新たに配属された岸辺が辞書作りに時間がかかることに驚き、今まで何をしていたのかと問う場面は、そこまでで辞書作りの大変さを画面で見てきた観客にとっては笑い話なのが可笑しかった。

 作品のテーマも良かったが、出演者の配役が絶妙。口下手だが真面目な馬締に松田龍平。退職するために彼を見出す荒木に小林薫。お父さんの松田優作と「それから」で共演してから約30年後の息子との共演。どんな感じだったのだろう。

 まだ売れる前の黒木華、馬締の上役オダギリジョー派遣社員伊佐山ひろ子。これだけでも豪華なのに、ベテラン陣もスゴい。大家の渡辺美佐子、松本教授に加藤剛、その妻の八千草薫

 久しぶりに邦画の実力を観た、という一本。

 

毒虫 北町奉行所捕物控 長谷川卓

●毒虫 北町奉行所捕物控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 行方が知れなかった凶賊・野火止の弥三郎一味の手掛かりを得、北町奉行所の臨時廻り同心・鷲津軍兵衛は調べに乗り出した。刻を同じくして、大名家の納戸方と居酒屋の小女の惨殺死体が相次いで発見され、殺しの手口から同一犯の仕業と思われた。誰が何のために、ふたりを手に掛けたのか。軍兵衛とともに、臨時廻り同心・加曾利孫四郎、岡っ引・小綱町の千吉らの、地を這うような捜査が始まった。息詰まる追跡と迫真の殺陣。書き下ろしで贈る大好評シリーズ第四弾。

 

 北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第4作。以下の6章からなる長編。

 「裏河岸」「湊橋北詰」「結」「伊蔵」「末広長屋」「捕縛」

 

 同心小宮山が街で倒れた老人吉兵衛を見つける。吉兵衛は宿を営んでいる由比から出て来ており、勘当した息子政吉を探しに江戸へ来ていた。吉兵衛から政吉が家を出る前に宿に泊まっていた男の話を聞くが、その男の首のアザから、野火止の弥三郎一味のぞろ目の双七だと思われた。

 鷲津は六浦自然流の道場へ道場主波多野の見舞いに来ていた。波多野から彦崎を見かけたと言われる。彦崎は強かったが素行が悪く道場を出て行った男だった。鷲津は吉兵衛の息子政吉探しを命じられる。

 岡っ引き留松の子分福三郎が居酒屋ひょう六の女、園に惚れ留松も店に誘われる。客の忘れ物があり園がその客を追って店を出るが、時間が経っても帰ってこない園を探しに出るが、殺しがあったと知らせを受ける。同心加曾利が捜査に加わる。殺されたのは、竹越家の三坂だと判明、上役の上月と酒を飲んで店を出たところを殺されたらしかった。竹越家の徒目付二瓶が死体を引き取りにやってくる。翌朝園もその付近で死体となって発見される。加曾利は忘れ物をした男が犯人だと睨み、その男のことを調べる。男が吸っていたタバコが極上品雲の雫だと判明。

 鷲津は政吉の似顔絵を作り調べていたが、4年前に惚れた女のことが原因でケンカをし既に死んでいることがわかる。その女、結に会いに行き話を聞き、それが政吉であることが間違いないと判明。しかしその2日後、結が殺されてしまう。鷲津は結の家を調べ、彼女が大店の内情を探りそれを盗賊に売る零し屋だったことがわかる。その情報を取りにまた盗賊たちがやってくるのを見張る一方、結が使っていた出会茶屋を突き止め誰と会っていたかを突き止める。

 加曾利はタバコ売りの情報から、男が伊蔵といい、その相方が百助の名前と伊蔵の塒も突き止め、見張り始める。伊蔵をつけ、呉服問屋島田屋と会っているのを目撃。そこに徒目付二瓶と隠密廻り同心武智が現れる。加曾利は2人から話を聞くことに。島田屋は大名家に取りいり賄漬けにして利権を独占していた。殺された三坂は上月にそれを進言し、伊蔵に殺されたらしいが証拠がなかった。

 鷲津は結の家を張り込んでいたが、ある日そこへ双七が現れる。彼をつけ船宿にたどり着く。そこが野火止一味のアジトだと思われた。

 加曾利は島田屋のライバル店から情報を集め、島田屋の悪事の裏を取る。そして百助を呼び出し拷問にかけると脅し、全てを白状させる。伊蔵は既に逃げていたため、加曾利は竹越家に逃げ込んだとふみ、二瓶の力を借りて伊蔵を捕まえる。

 鷲津は一味のアジトを仲間の応援とともに取り囲み一気に踏み込む。鷲津が睨んだように彦崎が一味の用心棒となっており、二人は一騎打ちをすることに。彦崎の秘技をかわし鷲津は彦崎を倒すのだった。

 

 前作に続く第4作。本作も二つの事件が並行して描かれる。由比から出て来た吉兵衛の息子探しに端を発した野火止一味の捕縛と武家殺しから始まる島田屋が雇った殺し屋伊蔵の事件。

 鷲津が追う野火止一味の一件が、意外な展開を見せて面白い。行方不明の息子〜零し屋結の存在〜野火止一味と繋がっていく。「零し屋」というのは初めて知った。鬼平犯科帳などでは、大工が大店の図面を盗賊たちに売るという話があったが。

 加曾利が追う事件は、タバコがポイントとなって男を追い詰める。現在もそうだが、江戸時代からタバコの葉は何種類もあって、やはり高級品もあったことがわかる。最後の詰めが、加曾利の脅しというのも面白い(笑 鬼平犯科帳でもそうだが、江戸時代はその手が使えるのだ。

 鷲津が最後に戦うのは、同じ道場にいた彦崎。強敵だというのはいつも通りだが、鷲津の息子竹之助との遭遇が話に深みを与えている。

 これまたいつも通り、岡っ引きたちも活躍、子分の貸し借りなどがリアル。また本作では女性が2人殺されるが、その検死の様もリアルに描かれている。性的暴行があったかどうかまでしっかりと調べるんだなぁと納得する。

 シリーズのヒロイン、蕗も少しではあるが登場する。島村家での島村の言葉が優しくホッとさせられる。

 シリーズも第4作まで来たが、面白さは全く衰えていない。次の作品も楽しみである。

 

古書カフェすみれ屋とランチ部事件 里見蘭

●古書カフェすみれ屋とランチ部事件 里見蘭

 古書カフェすみれ屋は玉川すみれがオーナー、店の奥は古書店になっており店長は紙野頁。カフェに来た客の悩みを聞いた紙野がその客に一冊の本をオススメしながら、客の悩みを解決していく「古書カフェすみれ」シリーズの第3作。以下の4編からなる短編集。

 

「割り切れない紳士たち」

 常連宍戸明美が隣席にいた掛川に話しかける。掛川は婚活中の男性で、最近婚活サイトで紹介された女性沢崎とデートをし良い雰囲気だったが、その後断りのメールをもらったという。その話を聞いていた客の馬場が自分の後輩が同じ目にあったと話し出す。   2人の話を聞いていた紙野が掛川に勧めたのは「俳句いきなり入門」だった。

 

「一期一会のサプライズ」

 TVカメラマン那須山が最近取材時にあった出来事を話す。TVタレント浜岡が人形町の寿司屋の名店逹冨の主人逹冨氏と会話をしながら寿司を食べるという番組だったが、逹冨氏は事前打ち合わせとは異なる寿司ネタを提供したというもの。紙野は那須山に「ロッパの悲食記」を勧める。

 

「天狗と少女と玉子サンド」

 店にやって来た加納母娘。本好きな娘ひなたは紙野と仲良くなる。母親とも話をしていた紙野だったが、その母親がひなたが書いた誘拐脅迫状を紙野に見せる。娘の行動を不審に思う母親に紙野は「’71日本SFベスト集成」の中の藤子不二雄作品「ヒョンヒョロ」を読むように勧める。

 

「シェアハウスのランチ部事件」

 店の常連五十嵐知穂が隣席にいた三井夏菜に話しかける。三井はシェアハウスに住んでおり快適に暮らしていたと話すが、ここ最近シェアハウスの住人たちで開いたランチ会で起きた不思議な事件について語り出す。紙野は三井に「銀の酒瓶」を勧める。

 

 シリーズ第3作。前々作前作ともに面白かったが、本作はさらに上をいく出来だと思う。

 「割り切れない〜」は謎の説明に入る前に、現在の婚活事情について詳しく描かれており、それを知って驚いた。そして謎が提示されるが、同じ被害?にあった人が他にもいることが判明し、単なる「嫌な」女性がいた、で話が済みそうなところで紙野の登場。その謎解き、伏線の回収もお見事。特にSNSに書かれた文章を丁寧に読み解くのが良かった。

 「一期一会の〜」はさすがに途中で謎の真相がわかってしまったが、次の「天狗と〜」がまた面白かった。ありえない脅迫文という謎が提示されるが、紙野が言う「加納母娘が語らなかった事実」の方が本当に隠された謎、という感じ。もちろんこれを見抜くための伏線もしっかりと貼られている。

 最後の「シェアハウスの〜」は、いかにもなミステリー。そのため、怪しい?真犯人の検討はついたのだが、そのトリックは全くわからなかった。本格的なミステリーならば御法度な手法ではあるが、ここではギリギリそれを回避しているように思える。もちろんこちらもよく読んでいれば、その伏線に気づくことは出来たであろうから。

 

 ミステリとしての出来が抜群に向上したと思える第3作。次回作が楽しみだが、第1作第2作が2年続けて発行されたのに対し、第2作から第3作までは4年かかっているのがちょっと心配。第4作はいつ読めるのだろう。

 

バーニング・オーシャン

●566 バーニング・オーシャン 2016

 マイクは石油採掘会社の技術者。メキシコ湾にあるBP社の油田ディープウォーターホライゾンへ3週間派遣される。主任のジミー、操縦士のアンドレアと一緒に、ヘリでホライゾンへ向かう。

 現場到着後すぐにジミーは、採掘のための安全確認のセメントテストが行われていないことに気づき、事情を確認する。現場にはBP社の幹部ヴィドリンとカルーザが来ており、ジミーは彼らと話す。彼らは行程の遅れを指摘、セメントテストの必要はないと判断していた。議論の末、代わりに負荷テストを行うことに。ジミーは仕方なくそれを受け入れる。

 負荷テストは問題なく終わったため、泥水除去の作業を開始する。最初は順調だったが、泥水の漏れが起こりそれにより機器が破壊され、一部が制御不能となり、ガス爆発が起きてしまう。

 施設内にも被害が及び負傷者が多発。マイクも負傷するが、ケガ人の救出を優先。負傷したジミーを助け出しブリッジに向かう。被害の拡大を防ぐために予備電源を操作するが爆発が続きそれも断念。施設にいる人間は皆脱出を始める。

 救命ボートやゴムボートなどで脱出をするが、最後まで残っていたマイクとアンドレアは取り残されてしまう。2人は施設の最上階へ上がり、石油で炎上する海面へと飛び込み難を逃れる。

 会社が用意したホテルで家族と再会したマイクだったが、事故による犠牲者は11名となってしまった。

 

 実際に起きた事故を映画化したもの。コストを優先したい会社幹部と現場の安全を最優先したい現場責任者の闘いから始まり、会社幹部の声が通ってしまい、大事故に。主人公(扱い)であるマイクが負傷者を助ける一方、最後はマイクが自力で施設から脱出するまでが描かれる。

 石油プラントという普段はその内部を見ることがない施設での大事故。そのため施設の再現性の正確さはわからないが、施設内で起こる泥水の漏れや爆発は大迫力。おそらくCGが多用されているのだろうが、それが全くわからないほどリアルに感じられた。

 展開はわかりやすかったが、ストーリーとしては細かい部分でわからないことが多かった。主人公の3人が施設に行かなければいけなかった理由は不明だし(単なる現場交代?)、冒頭のセメントテストの重要性もよくわからない(必要なのは会話でわかるが)。途中危険な状態で予備電源を使ってまでしようとしたこともよくわからないし(石油の流出を最小限に抑えようとしたんだろうけど)。

 結局理解できたのは、コスト優先の会社が悪かったこととあの手の施設で事故が起きれば大惨事となることだけ。

 まぁ専門性の高い施設で実際に起きた大事故なので仕方ないんだろうけど。