愚者のエンドロール 米澤穂信

愚者のエンドロール 米澤穂信

 

 神山高校1年生の折木奉太郎は、姉の勧めもあり、同級生である千反田える福部里志伊原摩耶花たちとともに古典部に入部する。奉太郎は自身の身の回りで起こる不思議な事柄の謎を解いていく。

 

 文化祭を控え、古典部では文集を作り始めていたが、千反田が2年F組が製作した映画の試写会に行こうと言い出す。皆で試写会に行く。待っていたのは入須冬実で女帝というあだ名を持つ生徒だった。試写会を見て感想を行って欲しいと頼まれ、映画を見る。映画は廃村で起きた殺人事件を扱っていたが、途中で終わってしまう。不思議がる皆に入須は、この殺人の犯人は誰だと思うかと尋ねてくる。 

 奉太郎たちは映画の脚本がある事情で未完成であることを告げられ、脚本作りに協力して欲しいと頼まれる。渋る皆に入須は、制作に関わった人たちの話を聞いて納得いくかどうか確かめて欲しいと言われ、2年F組の3人から話を聞くことに。3人はそれぞれ映画の結末予想を話すが、どれも実際に見た映画との整合性が取れていなかった。

 奉太郎は入須に言われ、映画を完成させるための結末を推理することになる。入須は奉太郎の推理を気に入り、映画を完成させる。古典部の皆で完成した映画を観るが、皆奉太郎が考えた結末に違和感を覚えたと話す。自分の推理に自信を持っていた奉太郎だったが、映画の小道具に関する事実を突きつけられ、自分の推理が間違っていたことに気づく。さらに入須が自分達に依頼してきた本当の理由にも…。

 

 

 前作「氷菓」が面白かったので、シリーズ第2作となる本作を読むことに。

 「日常の謎」系だった前作に比べ、映画の中の話とはいえ、密室殺人を扱っていること、また映画の脚本を完成させるという設定であり、本作の方が自分好みだった。

 ほとんどヒントがないように思えた映画の前半〜事件発覚まで〜だけで推理が組み上がって行くのも面白い。3人の生徒がそれぞれの推理を披露し、それを古典部の面々が否定して行く過程も良かった。3つの他の推理を否定しておいて、さらなる真相を突き止める、というのはミステリとして定番だが、その分真相がスゴいものでないとしらけてしまうが、本作ではそれが上手くいっていると思う。奉太郎の推理は見事だった。

 とここまでで終わればごく普通の推理小説ということになるが、もう一つどんでん返しが待っている。どんでん返しを作る?ために、奉太郎の推理が否定されるのだが、その理由が振るっている。ホームズの時代には叙述トリックがなかった、というのがその理由。途中、ホームズの短編集のタイトルが出てきたときにはちょっと興奮したが、底を突いてくるとはね。

 そして密室殺人の謎とは異なる、映画制作にまつわるもう一つの謎も明かされる。奉太郎の推理同様、こちらも見事だと思う。先に書いた「映画の脚本を完成させるという設定」を見事に使い熟しているオチ。

 

 前作を読んだ後に、このシリーズがアニメ化や映画化されているのを知って驚いた。原作シリーズを読み終わったら、そちらも見てみようと思う。

 

ペギー・スーの結婚

●723 ペギー・スーの結婚 1986

 ペギースーは夫チャーリーと別居中で離婚も考えている。高校の同窓会パーティに娘と参加したペギーは昔の友人たちと再会し喜ぶ。リチャードは社会に出て成功しており、憧れだったマイケルは不参加だった。

 パーティではキング&クイーンが発表され、キングはリチャードが、クイーンには昔のようなドレスを着て参加いたペギーが選ばれる。ステージに出て表彰されることになるが、ペギーは興奮したためか気絶してしまう。

 

 気が付いたペギーは25年前の高校にいた。献血をして気を失ったと言われて、友人に送られ自宅へ帰る。若い母親に再会して喜ぶペギー。不仲だった妹とも和解。しかし状況がよくわからず、家にあった酒を飲んで、新車を買って帰ってきた父親にそのことを叱られてしまう。

 翌日、ボーイフレンドのチャーリーに迎えにきてもらい学校へ。チャーリーからは高校卒業後一旦別れようと言われており、ペギーはだったら今すぐ別れましょうと話す。ペギーは秀才だったリチャードに声をかけ、タイムトラベルの実現の可能性について尋ねる。彼はそれを否定しなかった。自分が死んだのだと思っていたペギーはリチャードにタイムトラベルしたことを告白する。

 家に帰ったペギーは祖母からの電話で動揺する。祖母は現代ではすでに亡くなっていたためだった。夜、友人のパーティに参加するためにチャーリーが迎えにくる。そこで歌手志望のチャーリーが歌う姿を見てペギーは彼に惚れ直す。帰りの車の中でペギーはチャーリーに体を求めてしまう。しかし先週と言っていることが真逆だとチャーリーは怒ってしまう。家に帰りたくないペギーは街をさまよい、マイケルと出会う。彼が授業で老人と海を題材に教師に話した内容に惹かれていたペギーは彼と話をし、彼のバイクでデートをし関係を持ってしまうが、二人でいる所を友人に見られていた。

 翌日夜、話を聞いたチャーリーがペギーの家に忍び込んできてマイケルとのことを尋ねる。正直に答えたペギーにチャーリーは怒るが、ペギーは現在のことを念頭に別れた方が良いと話すとチャーリーは去ってしまう。

 卒業を5週間後に控えたある日、ペギーはマイケルとクラブへ。そこで卒業したら一緒に街を出て結婚しようと言われるが断る。その店でチャーリーの歌声が聞こえる。彼はそこでR&Bを歌っていた。ペギーたちは店を去る。チャーリーはエージェントと会い、歌手としての契約はしないと言われてしまう。

 翌日ペギーはチャーリーに会いに行き、彼のために書いた歌を渡す。学校でリチャードと会い、元の世界に戻るからと別れを告げる。ペギーは祖父母の家へ行くことに。そしてタイムトラベルしたことを告白する。祖母は誇りにできる大切なものを選び取るようにペギーに話す。祖父は自分が参加する秘密の会へペギーを連れて行くことに。その会に主催者はタイムトラベル経験者だった。会でペギーを元の世界へ返す儀式が行われペギーはいなくなる。祖父を初め参加者は喜ぶが、実はチャーリーが儀式に忍び込みペギーを連れ出したのだった。

 チャーリーは歌をやめることを父親に話し、父の店を手伝い収入を得ることになったと話し、改めて結婚を申し込む。ペギーは2回もチャーリーと結婚するなんてと断ろうとするが、彼がプレゼントとしてロケットを渡す。中を開いたペギーはそこに自分の2人の子供の写真を見たが、チャーリーはそれは自分とペギーの子供時代の写真だと話す。それを知ったペギーはチャーリーを愛していることに気づき彼と結ばれる。

 

 ペギーは病院で意識を取り戻す。そこは元の世界であり、同窓会パーティで意識を失った彼女は病院へ運ばれたのだった。そこにいたのはチャーリー。彼は浮気を謝罪する。ペギーは不思議な夢を見ていたと話し、日曜の夕食にチャーリーを誘う。

 

 

 タイトルも内容も何も知らずに観た一本。

 そのため、開始15分で過去へタイムスリップした時には驚いた。しかもそのまま主人公が過去の生活を楽しむ展開。高校生時代に戻る、というのはちょっと楽しいかも(笑 と思わせてくれるが、主人公には高校時代から付き合っていた恋人が今の夫であり、その夫と離婚を考えている、という設定がついてくる。あぁこれがこの映画のテーマなんだなぁと気づけば、結末は見えたようなもの。

 

 高校時代を楽しむ主人公を見ていて、「バックトゥザ・フューチャー」を思い出した。ひょっとするとこの映画が、「バックトゥ」のヒントになったのかも、とまで思ったが、鑑賞後に調べたら、この映画の方が「バックトゥ」からヒントを得たのね(笑 しかも本作はあのコッポラの作品だと知って二度驚かされた。あちらは何から何まで完全な仕上がりの娯楽大作だったのに対し、本作は人生をもう一度やり直せたら、ということに重きを置いたんだろうなぁ。高校卒業後25年の経験を持ってあの時代に帰れたら、そりゃ楽しいでしょうよ(笑 それをそのまま作品にしたような一本。

 

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ペーパー・ムーン

●722 ペーパー・ムーン 1973

 墓地で葬儀が行われている。参列者の中には幼い少女もいる。そこへ車で駆けつけて来た男がいた。彼は亡くなった女性の知り合いであったため参列したのだが、母親が死んだことで叔母の家へ行かなくてはいけなくなった少女を叔母の住むミズーリまで送って欲しいと参列者に頼まれる。男モーゼは断ろうとするが、彼がこれから行こうとする場所に近いこともあり断れなくなってしまい、少女アディをミズーリまで連れて行くことを引き受ける。

 しかしモーゼはとある家を訪ね、その男性の弟が事故を起こし、アディの母親が死亡したと嘘をつき、200ドルを男性からせしめる。その後、モーゼは駅へアディを連れて行き、ミズーリ行きの列車にアディを乗せようとする。列車到着まで時間があったため、モーゼはアディを食事に連れて行く。そこでアディから私の200ドルを返してと言われてしまう。自分の父親ならば良いけど、そうでないなら200ドルを返して、でなければ警察に訴えるとまで。

 200ドルを使いすでに車を買い替えていたため、仕方なくモーゼはミズーリ行きの切符を払い戻し、アディを連れて旅を続ける。彼は聖書販売詐欺を生業をしていた。アディを連れて詐欺を行い、200ドルを作ろうとする。ある家でいつも通り聖書を売りつけようとしたが、その家には保安官がおりモーゼは怪しまれてしまう。その時アディが機転を利かせモーゼは危機を逃れる。その後もアディはモーゼの詐欺を助け、二人は少しずつ金を稼げるようになる。

 ある街で二人は祭りに出かける。アディはモーゼと一緒に写真を撮ろうとするが、モーゼは自分のことに夢中で彼女を無視してしまう。さらにモーゼはショーに出ていた踊り子トリクシーとそのメイドであるイモジンを旅に同行させることに。トリクシーを助手席に乗せ旅を続けるモーゼにアディは怒りを爆発させ、ある時もう一緒には行かないと言い出す。困ったモーゼがトリクシーにそれを伝えると、彼女はアディに本音を語り出す。トリクシーは男好きだが、すぐに飽きてしまうと話すとアディは一緒に旅をすることに。

 4人で宿泊したホテルでアディは一計を案じる。ホテルのフロントマンがトリクシーに見とれていたのを見ていたアディは、イモジンと共謀してトリクシーがホテルのフロントマンと浮気するように仕向け、見事に成功させ、モーゼで二人だけで旅を続けることに成功する。

 二人はある街のホテルで時間を潰していた。その時アディがホテルを頻繁に出入りしながら手帳を見ている男がいることに気づく。それをモーゼに告げると、モーゼは男が闇屋で密売酒を売っていると思い、それで儲けようと考える。そしてアディに闇屋をつけさせ密売酒のかくし場所を突き止めさせる。モーゼはその密売酒を持ち出し、闇屋に売りつけることに成功し675ドルを手に入れる。

 直後急いでホテルから逃げる二人だったが、闇屋の弟の保安官が追いかけてきて捕まってしまう。事務所で取り調べを受ける二人だったが、証拠となる675ドルをアディが帽子に隠したことで、保安官の追求を逃れる。それでも保安官はしつこく取り調べを続けようとするが、アディが保安官の目を盗んで車の鍵を手に入れ、事務所から逃げ出すことに成功する。

 二人は車で逃亡するが、保安官たちに追われる。途中農場でトラックを見つけた二人は車を変えるためにそのトラックとの交換をし逃亡、川を越えて隣のミズーリ州へ入ることに成功する。ホテルに泊まった二人、モーゼは新たな詐欺を働くためにアディを打ち合わせをして全財産を持って騙す相手に会うことに。しかしホテルを出たところを保安官たちが待ち伏せしており、捕まってボコボコにされた上、全財産を奪われてしまう。待ち合わせ場所に現れなかったモーゼをアディは見つける。

 モーゼはほぼ文無しをなり、ミズーリにいることから、アディを叔母の家に送り届けることに。最後に本当の父親ではないのかとアディに尋ねられたモーゼはそれを否定し、アディを見送ることもなく冷たく去って行く。アディは叔母に温かく迎え入れられる。

 一人でトラックを運転していたモーゼ、休憩のために車を止めたときに、アディが残していった封筒を見つける。中には、祭りでアディが一人で撮影してもらった写真が入っており、アディからモーゼへのメッセージが書かれていた。そこへアディが荷物を抱えて走ってくる。それに気づいたモーゼは関わり合いになることを拒否しようとするが、アディはまだ200ドルの貸しがあると主張、その時トラックが勝手に動き出したため、モーゼはアディの荷物を持ってトラックを追いかける。二人はトラックに追いつき乗り込む。トラックの前には長く続く道が待っていた。

 

 子供の頃に来て以来、見た記憶がなく、今回何十年ぶりかで鑑賞。ずいぶん楽しい映画だったという記憶があったが、その通りの映画だった。

 

 母親に死なれ天涯孤独となった少女を、父親かもしれない詐欺師が、少女の叔母の住む場所まで連れて行くロードムービー。少女がいつの間にか詐欺師の手伝いをするようになり、大金も手に入れるがそれがバレて一文無しに。さぁ詐欺師である男は少女をどうするのか、というストーリー。

 

 それまで無口だった少女が、列車を待つために入ったレストランで突如喋りまくるのが可笑しい。それも妙な理屈で詐欺師である主人公を言い負かしてしまうのだから。さらにピンチに陥った詐欺師を助けたり、相手によって詐欺の道具である聖書の値段を上げたり下げたり。

 さらには、詐欺師が気に入って旅を共にしようとする若い女性を見事に追い出してしまうくだりは見事。このまま二人の詐欺生活が続くと思いきや、最後に密造酒がらみで下手を打ってしまい、一文無しに。そしてラスト。

 

 とにかくラストが良い。一文無しとなり居場所が少女の叔母のいる土地だった、というここまでの展開も上手い。となれば、詐欺師が少女を叔母の家に連れて行くのは必然であり、しかも叔母が少女を受け入れないだろうという予想も見事に外れ、叔母は少女を温かく迎え入れてくれる。一方、詐欺師も別れ際に悲しいそぶりも見せず、逆に父親ではないという念押しの会話を挟んで、冷たく少女の叔母の家から去って行ってしまう。

 このまま映画が終わるのかと思ったところで、詐欺師が少女が残した写真に気づく。そこで詐欺師が車を止めている間に少女が走って追いかけてくる。これでハッピーエンドかと思うがそうはいかず、詐欺師は少女を受け付けようとはしない。とここで最後の伏線回収。保安官から逃亡するために手に入れたボロトラック。これが二人が言い合いをしている最中に動き出してしまう。この動きのために、交換した車がボロトラックだったのだろう。主人公が詐欺師だけに、見事に観客を騙すようなエンディング。

 

 70年代なのにわざとモノクロで撮影されたのも良いし、何よりテーマ曲が映画の雰囲気にピッタリとあっている。OPの字幕のフォントもなんだかカッコ良かったし。

 

 テータムオニールはこの作品で最年少のオスカー。この映画の次の作品の「がんばれ!ベアーズ」も良かったなぁ。何気に子供の頃、良い映画を観ていたんだなぁ。

 

 

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

●721 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 1976

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 珍しく現代劇。車船長はさくらとともに船で巨大人食いザメと戦おうとしていた。おいちゃん、おばちゃん、満男をサメに食われていた。ついにそのサメと遭遇、しかしさくらも食われてしまう。一人人食いザメと戦う車船長だったが、サメに食われそうになる。そこで目が覚める。寅さんは海辺で少年たちと釣りをしていた、というオチ。

 寅さんが日焼けし髭も生やしているのは本当に珍しい。前年暮れに「ジョーズ」が公開されており、そのパロディと思われる。よほど「ジョーズ」がヒットしたんだろうなぁ(笑 ちなみに、ここ最近ブログで書いてきた寅さんシリーズの冒頭の夢は、本編の伏線となっていることが多かったが、本作のこの夢は特に伏線とはなっていないと思われる。

 

 OP後、とらや

 OPは河川敷でチャンバラごっこをして遊ぶ子供達に寅さんが混じり、子供をおもちゃの刀で叩いて泣かせてしまう。その子供の親が出てきてケンカとなるが、それを止めようとした大人たちも巻き込んでの騒動となる。

 とらやでは満男の小学校入学を祝う準備をしていた。そこへ寅さんが帰ってきて、満男入学のことを聞き、ご祝儀を包もうとする。それを聞いたおばちゃんおいちゃんは寅さんの行動を褒める。そこへさくらが満男を連れて帰ってくる。そしてクラスで満男が寅さんの甥だと知った皆が笑ったと話す。皆は怒るがタコ社長が余計な一言を言い寅さんとケンカになる。おいちゃんにこれまでの行き方をたしなめられ、寅さんは飛び出して行ってしまう。

 夜夕食時。博は昼間の騒動を聞き寅さんに同情、おいちゃんたちも反省していた。そこへ上野で飲んでいる寅さんから電話が入る。寅さんは源ちゃんにカバンを持ってこさせようとするが、さくらが謝罪し皆も反省しているので帰ってきてと頼む。さくらに謝られて満更でもない寅さんは家に帰ることを承知する。

 

 恒例のOP後とらやへ帰宅する寅さん。これまた恒例であるタコ社長とケンカをしてしまい、とらやを飛び出し、旅に出ようとするが、さくらに引き止められとらやへ帰ることにする。いつもなら、とらやを飛び出しそのまま旅に出てしまうが、本作では上野で飲んでいた寅さん。ストーリー上、この後老人と出会う必要があるためだが、不自然に感じさせないのが、上手いところか。

 

 寅さん、飲み屋で青観と遭遇

 寅さんは飲み屋でもう少し飲もうとしていた。その時、店で飲んでいた老人が飲み代をツケにして帰ろうとして店員に止められる。それを聞いていた寅さんは代わりに代金を支払い、店を変えて飲もうと老人を誘う。

 深夜、寅さんは老人を連れとらやへ戻ってくる。老人をとらやに一晩泊めてやってくれと言われ、おばちゃんは戸惑うが、二人とも泥酔状態のため、仕方なく泊めることに。

 翌朝、おばちゃんは老人に朝食を作ってやろうと声をかけるが、老人は風呂を沸かしてくれと言い出す。頭にきたおばちゃん、タコ社長が老人に説教しようとするが、布団を片付けるように言われてしまう始末。結局おばちゃんは風呂を沸かすことに。頼みの寅さんは仕事で出かけていたのだった。

 夜、寅さんが帰ってきて、うなぎを食べたいと言ったことを説教したおいちゃんの話など、老人の振る舞いを聞く。寅さんは老人が家で嫁にいじめられているのだろうと同情し、皆に許しを請う。そこへ老人が帰ってきて、うなぎを食べたツケを支払うことに。寅さんが払おうとするが、あまりの高額で驚く。

 

 寅さんが飲み屋で青観と出会う。シリーズではマドンナがらみで寅さんが意外な大物と出会うことはあるが、本作ではマドンナとは関係ないところで大物と出会う初めてのパターン。のちに19作では殿様と会うが、この殿様もマドンナがらみだったことを考えると、本作は寅さんが独自に大物と出会う唯一のパターンなのかもしれない。本作前半は、この青観とのエピソードが続く。

 

 青観の絵が騒ぎを起こす

 翌朝、寅さんは老人に皆の想いを伝える。宿屋じゃないんだからと言ったところで老人は驚く。彼はとらやを宿屋だと勘違いしていた。老人は謝罪のため、紙と筆を求め宝珠の絵を描く。それを神田の大雅堂に持っていって金を都合してもらってくれと寅さんに頼む。

 嫌がる寅さんだったが、頭を下げられ仕方なく大雅堂へ。そこで絵を見せると最初は笑っていた主人が次第に顔色を変え、絵を7万円で買い取ると言う。寅さんは7万円を持って帰り、さくらにもう働く必要はない、金が欲しければ上の爺さんにチョチョっと絵を描かせれば7万円になる、と話す。疑うさくらに寅さんは老人は青観という有名な画家だと話す。しかしはすでにとらやから去っていた。

 夜、青観は自宅に戻っていた。とらやでは、老人が有名な画家青観だったことを知り皆驚く。寅さんはとらやの皆が老人を見た目で判断したと非難するが、自分もみすぼらしい爺さんだと言っていたのだった。その時満男が青観に描いてもらった絵を皆に見せる。また7万円になるかも、と騒ぎになる。しかしその絵をタコ社長と寅さんが奪い合い、結果破ってしまう。寅さんはタコ社長に激怒、弁償をしろと迫りケンカとなる。皆が仲裁し、寅さんは自分の行動を悔やみ、とらやから出て行く。

 

 青観の絵が7万円で売れたことで喜ぶ寅さんだったが青観はすでにとらやから去っていた。後の祭り状態だったが、そこで満男が青観に描いてもらった絵が見つかり騒動に。本作2度目の寅さんとタコ社長のケンカとなり、寅さんは旅に出てしまうことに。

 寅さんが旅に出る前に話す言葉が切ない。「このうちで揉め事があるときにはいつでも悪いのはこのオレだよ。でもなぁさくら、オレはいつもこう思って帰ってくるんだ。今度帰ったら、今度帰ったら、きっとみんなと一緒に仲良く暮らそうって。兄ちゃんいつもそう思って…」 この「今度帰ったら」を二度繰り返すときの寅さんが涙を誘う。

 

 寅さん、旅先で青観と遭遇

 さくらは7万円を返しに青観の自宅を訪ねる。そして青観が播州龍野に旅に出ていると聞く。その龍野で青観は市の観光課長たちに連れられ車で街巡りをしていた。そこで寅さんと遭遇、課長は青観の知り合いだと考え、寅さんも同行させる。夜、青観の歓迎会が座敷で行われ、寅さんも同席する。青観は途中で退席するから後をよろしくと寅さんに話す。寅さんは芸者ぼたんや課長とともに最後まで座敷に居座り宴会を楽しむ。翌日、青観は体調不良を訴え、寅さんが課長たちに市内名所観光に連れていかれることに。しかし前日の宴会が響き寅さんや課長たちは眠り込んでしまう。昼飯で立ち寄った蕎麦屋で一行はぼたんと再会、寅さんは一緒に昼飯を食べることに。その頃青観は昔恋仲だった志乃の自宅を訪ねていた。

 夜、寅さんは課長たちとぼたんとまた宴会をしていた。青観は志乃と過ごしており、志乃に謝罪し後悔していると話すが、志乃は人生に後悔はつきものだと話す。

 翌日、青観と寅さんは龍野を後にする。ぼたんがやってきて宿を去る寅さんに土産物を渡す。寅さんはぼたんにいずれ所帯を持とうなと声をかける。

 

 以前この作品を観たとき、志乃役の岡田嘉子さんのことを調べ驚いた記憶がある。そんな岡田さんの人生を知った上で、青観とのこのシーンの台詞のやり取りを見ると考え深い。

 以下、青観に昔のことを謝罪された志乃が話すセリフ。

 「人生に後悔はつきものなんじゃないかって。あぁすりゃよかったなぁという後悔とどうしてあんなことしてしまったんだろうという後悔」

 

 再びとらや ぼたんもとらやへ

 さくらが御前様にとらやへ帰ってきた寅さんがおかしくなっていると相談していた。寅さんは龍野での楽しい日々を皆に聞かせていた。そこへぼたんがやってきて、さくらを寅さんの奥さんだと勘違いする。夜、ぼたんを迎えて皆で夕食をとる。そこへタコ社長がやってきて、工場の宴会でに出て欲しいと頼み、ぼたんは喜んで参加する。

 翌日出かけていたぼたんがとらやへ帰ってきて、東京へ出てきた理由を話す。以前鬼頭という社長に200万円を貸したが返してもらえていないこと、社長の会社が倒産したためだと言うが、鬼頭の妻などは金を持っており、会社もやっている、つまり鬼頭にだまされたのだということを話す。それを聞いた寅さんは激怒するが、金のことだからとタコ社長に間に入ってもらうことをおいちゃんに提案され仕方なく受け入れる。

 翌日タコ社長はぼたんとともに鬼頭の元を訪れるが、相手にされなかった。とらやに戻ってきた二人から話を聞いた寅さんは自分が仇を取ってやると言い残し出て行く。おばちゃんは心配するが、寅さんが行き先も知らないとさくらに言われ安堵する。しかしぼたんは寅さんの言葉に嬉しいと涙する。

 

 龍野からとらやへ戻ってきた寅さん。なんのひねりもなくとらやへ戻ってくるのはちょっと不思議だが、先日観た「噂の寅次郎」もそうだった。「噂の〜」では旅先で博の父にかけられた言葉に感動した寅さんがそれを伝えにとらやへ戻ってきた。本作も龍野での贅沢な暮らしを喜んだ寅さんがとらやへそれを自慢しに帰ってきたと見るのが妥当だろう。

 ぼたんもとらやへ。旅先での最後の寅さんのセリフがあったので、寅さんに会いにきた、と思うところだが、実際にぼたんの本当の目的は借金返済を鬼頭に迫るためだった。そして話を聞いたとらやの面々はタコ社長をぼたんの助っ人にする。結果的に役には立たなかったが。そして法律では罰することができないと知った寅さんの啖呵。犯罪者になることも厭わず、ぼたんの仇を取ることを決意した寅さんのセリフはカッコ良い。それを聞いて涙するぼたん。ここも記憶に残る名シーン。しかし寅さんは鬼頭の居場所を知らず、どうすれば良いのかと戸惑うオチが続く。

 

 寅さん青観の元へ そして終盤へ

 行き場を失った寅さんは青観の家へ。そしてぼたんにまつわる事情を説明し、絵を描いて200万を作って欲しいと頼む。しかし青観はそれを断る。理由を説明しようとするが、寅さんは受け付けず、上野で出会ったときのことを話し、二度とテメェのツラなんて見たくないやと出て行く。

 ぼたんはとらやから帰って行く。そこへ寅さんから電話が入るが間に合わなかった。上野駅へさくらと源ちゃんが向かい、寅さんにカバンを渡す。さくらはぼたんが寅さんのことを好きなのではを話すが、寅さんは冗談を言うなと言い残し旅立つ。

 夏。とらやへ青観が訪れる。寅さんのことを聞くが、寅さんが旅に出ていると聞きとらやを後にする。寅さんはその頃龍野におり、ぼたんの元を訪れていた。寅さんに気づいたぼたんは家へ寅さんを上げ、青観が送ってきたというぼたんの絵を見せる。それを知った寅さんはぼたんを家の外へ連れ出し、東京の方角を聞きそちらに向かって青観にお礼を言う。

 

 前のシーンで見事な啖呵を切って鬼頭の元へ向かおうとした寅さんだったが、その居場所を知らないことに気づいた寅さん。その寅さんが向かったのは青観の家だった。なるほどなぁと思わせる展開。そしていつかのようにチョチョっと絵を描いてもらい200万を作ってもらおうとするが、断られる。そりゃそうだよなぁ、と思うが、その後のやり取りで、青観も寅さんにキチンと理由を説明できない。説明できない青観を描くのが山田監督の上手さだと思うがどうだろうか。

 そして上野駅の別れがあり、ラストシーンへ。珍しく寅さんがマドンナであるぼたんの元を訪れる。ラストで寅さんがマドンナに会いに行くのは非常に珍しいが、本作の見どころがここで待っている。青観がぼたんのために絵を描いて送ってきていたのだ。寅さんの言葉に負けて?青観が送ってきたのだろうと思わせる。ぼたんの喜びぶりが本作の後半にあったやるせなさを吹き飛ばしてくれる見事なラスト。

 

 シリーズ第17作。見終わってちょっと思ったのは、ぼたんというマドンナはなぜ再登場しなかったのだろうか。普通のマドンナとは異なり、玄人のマドンナであり、リリーと似た雰囲気を持っていたからだろうか。それともぼたんを再度出すためには青観演じる宇野重吉さんにも再登場を願わねばならないからか。大地喜和子さんのwikiを見ていて、この翌年に「獄門島」に出ているのに気づいた。あぁピーター演じる鵜飼を使って本鬼頭を乗っ取ろうとしていた分鬼頭の女性を演じていたなぁ。

 

 蛇足ながら。池内青観の家のお手伝いさん岡本茉利さん、シリーズでは吉田義男さん率いる劇団の大空小百合役の人だよなぁ、声ですぐわかった。

 

鬼平犯科帳 第1シリーズ #24 引き込み女

鬼平犯科帳 第1シリーズ #24 引き込み女

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 伊三次が磯部の万吉を見つけたと急いで五鉄に戻ってきて、店番をしていたおまさに伝える。万吉は一人働の盗賊だが、腕を買われ諸方の盗賊から助っ人を頼まれる人物だった。伊三次は築地の蕎麦屋で万吉を見つけたが、自分の尾行では気づかれると思い、おまさに託したのだった。おまさは彦十に話をして一緒に万吉のことを調べ始める。

 おまさは橋でお元を見かける。お元は昔一緒にお勤めをしていた仲だった。おまさは声をかけずお元をつける。お元は袋物問屋菱屋に入っていった。おまさはお元が菱屋に引き込み女として入っているのではと疑い、彦十に相談する。おまさは鬼平にお元のことを伝えることに。話を聞いた酒井はお元が万吉と関わりがあるのではと考え、菱屋に見張り所を設けるよう鬼平に進言する。鬼平はおまさにお元に話しかければ本当のことを話すかと尋ねる。おまさがお元が昔のままなら話してくれるだろうが、女は変わるものだと答えると、鬼平はお元のことはおまさに任せると話す。酒井は不服だった。

 菱屋。主人の佐兵衛は店の娘である嫁やその父親から邪険に扱われていた。そんな佐兵衛のことをお元は心配そうに見つめていた。おまさと彦十は菱屋を見張る。店から出てきたお元をおまさがつけるとお元は川べりの茶屋へ。そこでおまさはお元に声をかけることに。お元は盗みの世界からは足を洗ったと答えるが、おまさはお元が引き込み女として菱屋にいる、しかも仕事が近いと確信する。しかしおまさは妹のように可愛がっていたお元が捕まるところは見たくないと彦十に話す。

 お元は店の蔵の鍵の型を取り、店に来ていた按摩にそれを渡す。按摩はそれを磯部の万吉に渡す。万吉は駒止のお頭が10日後に江戸に入ると按摩に伝える。

 同心たちは密偵たちが何も連絡してこないことに怒っていた。さらに密偵たちが裏切るのではと話すが、酒井はそれをたしなめる。その頃鬼平は生花をする久栄に愚痴をこぼしていた。

 おまさはお元と会う。お元は店の主人と割りない仲になり、一緒に逃げようと言われていることを告白し、こんな気持ちになったのは初めてだと話す。おまさはお元に幸せになるために主人と逃げるように話す。しかしそれを万吉に見られていた。

 その夜、板橋の宿場で押し込みがあった。日頃は上州で盗みを働くが数年に一度江戸へ出てくる駒止の喜太郎一味の仕業だった。知らせを聞いた鬼平は、喜太郎一味がいずれ江戸市中に現れる、万吉がつなぎでお元が引き込み女、万吉が今だに動き出さないのは、喜太郎一味を待ってのことだろうと話す。さらに酒井が持って来た書類から、3年前の喜太郎一味の調書から、喜太郎の女がお元だろうと考え、菱屋に見張り所を設けるよう酒井に命じる。

 彦十はお元を万吉がつけていたのなら二人は仕事仲間だと言い、鬼平に伝えるべきだとおまさに話す。おまさはお元のことなど全てを鬼平に打ち明ける。鬼平はお元は逃げても駒止の喜太郎が許さないだろうと話し、お元が喜太郎の女であり、板橋宿の事件のことを教える。

 菱屋の見張り所に同心たちが詰めていた。そこへ鬼平から言われたおまさが向かう。しかし動きがないため、同心たちはお元に誰かが何かを伝えたのではとおまさたちを疑う。酒井は同心たちをたしなめ、おまさを庇う。

 夜、店に按摩がやってくる。按摩はお元に明日駒止のお頭が会うのを楽しみにしていると伝える。お元は佐兵衛に明後日昼に船宿で待っていると伝える。店から按摩が出てくる。そこへ万吉が現れたため、同心たちが尾行する。しかし万吉をつけていた沢田は巻かれてしまう。万吉は喜太郎に会い、お元が怪しいと告げるが、喜太郎は自分の女であるお元を完全に信頼しており聞く耳を持たなかった。

 翌朝、沢田が万吉に巻かれたと戻ってくる。その時、お元が店から出てくる。おまさは酒井にお元の後を一人でつけさせてくれと頼む。酒井は了承するが、沢田に何事か命令する。納得田舎い同心小柳は鬼平に報告するが、鬼平は半刻ごとに知らせろと言うだけだった。夕刻になり報告に来た小柳に、鬼平はおまさとお元のことは忘れ、菱屋だけを見張れと酒井に伝えろと話す。久栄は鬼平にこれで肩の荷が下りたのではと言われる。

 夜、お元は一人で旅立とうとしていた。おまさが声をかける。そこへ万吉が現れおまさが密偵だと見抜き、おまさとお元を殺そうとする。そこへ沢田が現れ万吉を倒し、何も言わずにさっていく。見張り所に鬼平が現れ、今晩一味が動くと話す。一味が菱屋に現れ、鬼平や同心たちが一味を捕まえる。鬼平は店の佐兵衛にお元は二度と戻らん、あの女の子とは諦めるんだなと言い残し去っていく。

 役宅でおまさが鬼平にお元を逃がしてしまいましたと白状する。いかようなお裁きもと言うおまさに久栄は殿様の顔をご覧あそばせと言う。鬼平はおまさに、酒井や同心たちに礼を言いなと話す。お元は盗賊の世界から足を洗うことができ、一人旅立って行った。

 

 

 初見時の感想はこちら。あらすじを追加した修正版。

 

 修正版を書くのも20回を越えたため、ちょっとぼーっとしながら本作を見ていたら途中で、磯部の万吉と駒止の喜太郎のつながりがあることにどうして鬼平が気づいたのかわからなかった。このブログを書くために見返してやっと理解した。

 一人働きが主であるがその腕を見込まれて助っ人を頼まれる磯部の万吉が、江戸に現れたのは、誰かに助っ人を頼まれたから。その万吉がしばらく動きを見せていないのは、助っ人を頼んだであろう喜太郎の江戸への到着を待っているからではないか、と鬼平は推理したのね。

 さらにその後、おまさからお元が万吉につけられていたことを聞いた鬼平は、この3者が完全につながっていると見込んだわけだ。ドラマでは、3年前の調書から鬼平はお元が喜太郎の女であることを推理しているので、話が前後しているとも思われるけど、この辺りは大目に見ましょう(笑

 

 冒頭でいきなり話題となる磯部の万吉、そして中盤いきなり現れる駒止の喜太郎(正確には、その前に万吉が按摩に『駒止のお頭が…』と言っているけど)、この二人のつながりさえ理解できれば、本作は話が早い。つまり、喜太郎一味の引き込み女として菱屋に入っていたお元が、その店の主人に一緒に逃げよう(主人は妻である店の娘やその父親に邪険にされていた)と言われ悩む、そこへ昔の仲間だったおまさが現れて逃げることを後押ししてくれる、という話なわけで。

 

 で、やっと本題に入るが、密偵たちの昔の仲間が登場する話は良くあるパターン。多くの場合、悲劇的な結末を迎えるが、本作は珍しくそうはならないパターンだった。この結末があるからか、途中珍しく同心たちが密偵(おまさと彦十)の仕事に不満を漏らす。挙げ句の果てには、おまさたちがお元に情報を流しているのでは、とまで疑う始末。

 本作ではそれを咎めるのは、鬼平ではなく酒井の役割。見張り所で責められるおまさに酒井は声をかけ、昔の仲間だったお元のことで悩んだのは、おまさが優しいからだと慰める。他の話ではちょっと見かけない同心酒井の見せ場かもしれない。

 同心で言えば、万吉を尾行した沢田は巻かれてしまうが、その後、お元とおまさのもとに現れた万吉を見事に斬って捨てるカッコ良いシーンが待っている。さらに最後の捕り物の場面でも、いつも以上に剣が冴えていたと思うのは気のせいか。

 

 昔の仕事仲間だったお元のことで悩んだおまさ。あまり本音を言わないおまさに対する鬼平の心情を久栄が代弁しているのも見逃せない。これはラストだけではなく、途中のシーンでも同じ。さすが奥方様である。

 

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誇り高き男

●720 誇り高き男 1956

 西武のとある町。牛追いたちが多くの牛追い、売買しにやってくる。保安官のキャスは牛追いたちに町で騒ぎを起こすなと忠告する。そんな牛追いの中にキャスを見つめる一人の男がいた。

 町は金を持った牛追いたちを歓迎する。キャスの恋人でレストランを経営するサリーも大忙しだったが、キャスはそんな彼女に指輪を送りプロポーズをする。そこへ保安官助手のジムがやってきて、パレスが新たにオープンしカジノの道具などを運び込んでいる、オーナーはバレットだと告げる。キャスは店へ。

 店の外でキャスは牛飼いたちを見かける。その中にはキャスを見つめていた男がいた。彼はサッドと名乗り、キーストーンの町で丸腰だった父親がキャスに射殺されたと話す。キャスは反論するがサッドは聞く耳を持たなかった。

 店に入ったキャスはカードのディーラーが指輪を使ったイカサマをしているのを見抜く。キャスは支配人のディロンにオーナーに言ってディーラーを首にしろと話すが、ディロンは反論、ボスであるバレットと因縁があると聞いているぞとキャスをバカにする。キャスがディロンを殴るとカウンターにいた男がキャスを撃つ。その男をサッドが撃つがサッドも撃たれ負傷する。バレットが出てきてキャスの言う事を聞きディーラーをクビにする。

 事務所に戻ったキャスは酔っ払って牢屋に入れられていたビリーを釈放する。助手のジェイクはケガをしているキャスを心配し治療する。負傷したサッドはキャスの計らいでサリーのレストランで医者の治療を受けていた。そこへキャスがやってきて、牛追いの仲間はテキサスに帰って行ったと話し預かっていた給料を渡す。サッドはこの街に残ると話し、キャスは看守の仕事ならあると話すがサッドは断る。事務所に戻ったキャスは、落としたバッジを拾おうとした時に視界がぼやけるのを感じる。撃たれた後遺症だと思われたが、キャスは誰にもそれを告げなかった。

 サリーはバレットのもとを訪れ、キャスを挑発しないように忠告する。バレットは前の町からキャスが逃げたのは自分を恐れているからだと話すが、サリーはキャスを連れ出したのは自分で、キャスはバレットを恐れていない、だから挑発するなと話す。

 サッドは怪我が治る。キャスは事務所にサッドを連れてきて父親がバレットに雇われた殺し屋だった事を告げる。それを聞いたサッドはバレットに話を聞きに行く。その頃バレットは殺し屋であるパイクとチコを呼び寄せていた。二人と入れ替わりにサッドはバレットと会い父親のことを尋ねるが、追い返されてしまう。サッドはキャスに会いに行き、看守として雇ってもらうことに。

 街では牛追いのため景気が良くなり物の値段が上がる。

 バレットの店で賭博に勝った客が店の人間2人に襲われそうになる。それをキャスが助け、2人を牢に入れる。翌日、バレットの店でイカサマをされたと怒った客が撃ち殺される事件が起きる。キャスはディロンを捕まえ牢に入れる。バレットに雇われたパイクとチコが夜、巡回をするキャスを狙う。酔っ払いのビリーはそれを見ていて、酔ったフリをしてキャスに忠告する。キャスは二人と撃ち合いになるが、途中視界がぼやけてしまったため人家に逃げ込む。銃声を聞いた住民が騒ぎ出し、殺し屋二人は逃げて行く。

 キャスは医者に症状を訴え診てもらい、仕事を辞めカンザスシティで治療を受けるように言われる。しかしキャスはこの事を黙っているように医者にお願いする。

 事務所にジムがやってきて、子供が生まれるので妻に危ない仕事をやめるように言われたので、助手を辞めると話す。キャスは受け入れ、サッドに助手になるように命じる。そして夜、一緒に巡回に出る。酔ったチコと会うが、キャスはそれが演技だと見抜きチコを射殺する。チコが丸腰に見えたサッドはキャスを非難するが、キャスはチコが銃を構えていた事を告げる。翌日、真実気づいたチコはキャスに謝罪する。キャスはサッドを射撃訓練に連れて行く。その場でまだキャスのことを信じられないサッドだったが、彼に背中を見せるキャスを信じ始めていた。

 キャスが邪魔になってきたバレットは町議会のメンバーに働きかけ、キャスがチコを撃ったことを咎め保安官をやめさせようとする。議会のメンバーに辞任を迫られたキャスは明日牢にいる3人の裁判が行われれば辞めると答える。

 その夜、サリーは医者からキャスの症状の話を聞き、すぐにカンザスシティへ旅立とうとする。しかしキャスは明日まで待つように言う。その時街で騒ぎが起こる。パイクが牢にいた3人を脱獄させたのだった。事務所に駆けつけたキャスはジェイクが射殺されているのを発見。キャスはショットガンを取り出し、サッドとともに一味が隠れた納屋へ向かう。

 パイクを入れた4人を相手に二人は銃撃戦を行う。途中キャスは視界がぼやける状態になってしまうが、サッドの助けもあり、4人を射殺する。そこへサリーが馬車に乗ってやってくる。サッドはキャスを見送りつつ、まだ残された仕事があると言い、バレットの店へ。キャスはサリーにあとを追うように指示する。ジムもサッドに加勢する。バレットを逮捕しようとするサッド、バレットは隙を見て銃を抜くがサッドは彼を射殺する。それを見届けたキャスはサリーとともに馬車に乗って去って行く。サッドはそれを見送り、ビリーに50セントを与えるのだった。

 

 タイトルはよくあるフレーズのため、なんとなく知っているような知らないような映画だったが、初見。しかしこれがなかなか面白かった。

 ストーリーは町の保安官が因縁のある相手と対決する、というある意味定番のものだが、細かいものを含めてサブエピソードが良い味を出している。

 

 序盤で保安官を意味ありげに見つめる男は丸腰の父親を保安官に殺されたと思っているが、保安官の言葉やその後の態度で彼を信用するようになる。この一番のサブエピソードがちょっと弱い気もするが〜サッドが比較的あっさりとキャスを信用してしまう〜射撃訓練の場で何度もキャスを撃とうとする態度を見せるので良しとしよう(笑

 

 その他では、保安官が恋人サリーと結婚をしようとしている場面を冒頭で見せたこと。これが最後に効いてくる。

 保安官助手のジムが妻の初産を迎えて仕事を辞めてしまうのも良いエピソード。辞めるのが良いわけではなく、ラスト一人でバレットの元へ向かうサッドを「加勢する」と言いながら着いて行くのがちょっと痺れた。正義のための仕事を続けたいと思っていたが、妻の言葉でやめざるを得なくなった、というジムの心情をここで表している。

 一番気に入ったのは、酔っ払いビリー。序盤で牢に入れられていたが、キャスにあっさりと釈放してもらう。おそらく酔っ払って迷惑をかけただけなのだろうが、その際外へ出て行くビリーがキャスに50セントをねだるシーンがラストの伏線となっている。キャスが保安官を辞め後任となったサッドがラストシーンでキャスを見送りつつ、ビリーに渡す50セントにはそんな意味があったのだろう。

 

 1956年製作ということでまだまだ西部劇の黄金期の作品だと思う。ストーリーも含め若干作りが荒いと思うところがないわけではないが、90分強という尺を考えても、エピソード含めよく作られた一本だった。

 

 

 

男はつらいよ 噂の寅次郎

●719 男はつらいよ 噂の寅次郎 1978

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。冬、貧しい家の娘おさくが道端の寅次郎地蔵尊にお餅とみかんのお供えをする。寒い中佇む寅次郎地蔵におさくは自分の着物を着せてやる。おさくが家に帰ると父親が借金返済を迫られており、おさくはお代官の妾になることを承知する。そこへ寅次郎地蔵の化身が現れ、おさくの施しに礼を言い、小判や米俵などを出し、柴又村を春に変え、一家を救う。

 この夢も後の話にリンクしていると思われる(後述)。また、時代劇という設定のためか、おさくの父親役として吉田義男さんがこのシーンだけの登場。

 

 OP後、とらや

 OPは川べりを歩く寅さんが画家にちょっかいを出し騒動になる話。

 とらやのおいちゃん、おばちゃん、さくらが寅さんとさくらの父親の墓参りに。そこにいたのは寅さんだった。皆で墓参りをし、寅さんはその心がけを御前様に褒められる。しかし、本当の墓はその隣だった、というオチ。

 旅の途中でちょっと立ち寄ったつもりだった寅さんだったが、皆に見つかったためとらやへ。ここでは寅さんは平和にとらやの皆と挨拶をして終わる。夜、おいちゃんが腰を痛めさくらにマッサージをしてもらっている。配達が辛いとおいちゃんは話し、配達のために人を雇えばという話になる。寅さんは自分がしっかりとしていないため皆に迷惑をかける、と神妙な態度を取る。いつもの夕餉にタコ社長が現れないことに気づいた寅さんは博に話を聞く。タコ社長は不景気のため金策に走っていると聞いた寅さんはタコ社長が自殺を考えているのでは、と騒ぎ出す。工場の従業員に社長を探させる一方で、とらやで葬式ができるよう手配を考え始める。そこへ酔っ払った社長が帰ってきて、寅さんとケンカになる。

 翌朝、さくらはおばちゃんからの電話で、寅さんが謝罪の手紙を残し旅だったことを知る。

 

 寅さんがいつも通りとらやに現れるが、本作では墓参り先の帝釈天で皆と出会う、という珍しいパターン。墓参りがきっかけだったためか、とらやでは平和に過ごしていたが、タコ社長の件でトラブルとなり、いつも通りケンカをして旅に出ることに。

 冒頭の夢の地蔵〜墓参り〜タコ社長の自殺?と人の生死に関わる話が続いているのは見逃せない。これがこの後の話への布石となっている。

 

 

 寅さん旅へ とらやでは職安に募集を

 寅さんは橋を歩いている時に雲水と出会い、女難の相が出ていると告げられる。寅さんは物心ついてこのかたそのことで苦しみ抜いていると答える。その後寅さんはいつもの通り、縁日でバイをしていた。

 とらやでは博が職安に従業員募集の依頼を出していた。

 寅さんはダムである女性と出会う。彼女が泣いているのを見た寅さんは話を聞くよと声をかけ、町の食堂で彼女の失恋話を聞く。寅さんはバスで旅立つが、女性に柴又のとらやと自分の名前を告げる。バスに乗った寅さんは後ろの乗客に話しかけるが、それは博の父親だった。

 

 寅さんと雲水(大滝秀治)の会話が可笑しい。大滝秀治さんの登場はこの1シーン。大滝さんをワンポイントで使うとはなんと贅沢な映画だろう(笑

 その前のシーンでおいちゃんが腰を痛めた話を入れておいて、ここでは博が職安に行ったことがさらりと明かされる。これが本作のマドンナ登場の布石となっている。

 旅先の女性(泉ピン子)の登場も見逃せない。雲水に女難の相と言われた直後のため、ここで何か起こるのかと思うが、この女性とはあっさり別れてしまい、寅さんは女性に食事をご馳走したため金欠に。それが女難の相だったか、と思わせるが、この後のマドンナとの出会いが女難の相であることは言うまでもない。さらに、この女性は終盤に再登場することとなる。

 

 

 博の父との旅

 博の父と出会った寅さんは、彼の旅行に同行することに。宿で芸者をあげて大騒ぎをし、父親を残し一人芸者たちと街へ繰り出す始末。翌日父親は神社や寺巡りをするが、寅さんはタクシーの中で居眠りをするばかり。

 宿でまた芸者を呼んで騒ごうとする寅さんだったが、父親に断られる。つまらない寅さんは本ばかり読んでいるからと反論するが、父親は今昔物語の中の一つの話をする。その話に共感した寅さんは翌朝、バス代と今昔物語の本を借りるという手紙を残し、一人で去って行く。

 

 冒頭の夢から続いた人の生死に関わる話が、博の父親が語った今昔物語の話で完結する。生きることの無常に気づいた寅さん。本を借りるだけではなく、バス代もちゃっかりと借りているのがちょっと可笑しい。

 

 

 再びとらや 寅さんのアリア マドンナとの出会い

 帝釈天で御前様にとらやの場所を聞く女性。あまりの美貌に源ちゃんがあとをついて行く。その女性、早苗がとらやに来て、職安の紹介でやってきたことを告げる。皆は驚くが、早苗は明日から働くと告げ、帰って行く。タコ社長は早苗の美貌に驚き、工場にいる博に告げに行く。博もとらやへ顔を出すが早苗はすでに帰った後。皆で早苗のことを話し笑っているところへ寅さんが帰ってきて、博の父親と会ったことを話す。

 夜、寅さんは博の父に聞いた今昔物語の話を皆に聞かせ、お開きとする。2Fへ上がる時に寅さんは明日9時に旅に出ると話す。

 翌日。9時に早苗が来るため寅さんと会ってしまうことをおばちゃんが心配する。早苗が9時にやってきたところ、旅に出る準備を整えた寅さんが2Fから降りてきて早苗と出会ってしまう。行きがかり上、旅に出なければいけない寅さんはとらやを出て行く。途中さくらと会った寅さんは仮病を使い、とらやへ戻る。お腹が痛いと騒ぎになり、早苗が救急車を呼んだため、寅さんは救急車で病院へ運ばれる。

 夕方、大したことではないと判明した寅さんがとらやへ戻ってくる。寅さんは誰が救急車を呼んだのかと怒り出すが、早苗が正直に自分が呼んだことを告げると態度を一変させ、救急車に一度乗って見たかったと話す。

 

 寅さんでの定番シーンである、寅さんがとらやでマドンナと出会い、旅に出るのを取りやめるパターン。本作ではそれのみならず、仮病を使った寅さんが救急車で病院へ運ばれる騒動に。救急車を呼ばれたことを怒る寅さん、その後態度を一変させるのがたまらなく可笑しい。

 

 

 早苗の生活

 早苗は姉の家へ帰る。居候していることがうかがえる。

 翌日、おいちゃんとおばちゃんが知り合いの結婚式へ。そのため、とらやは寅さんと早苗二人で店番をすることに。早苗が一人で奮闘しているところへ寅さんが2Fから降りてくる。昼飯中だった早苗は弁当を食べる。寅さんは何かと気を使おうとするが、早苗はそんな寅さんを見て、怖い人かと思ったけど優しいのねと話す。その後早苗が別居中だと知った寅さんは喜んでしまう。博はさくらに早苗の力になってやればと話す。その時博は父親に手紙を書いていた。

 

 寅さんがマドンナが人妻だと知り一度は落ち込むが、夫とは別居中で上手く行きそうもないと知ると喜んでしまう。別居中だと知った瞬間の寅さんの微笑み、しかしその後それを喜んではいけないとしかめっ面を作るのが可笑しい。

 また博が父に手紙を書いているが、これも後のシーンの伏線である。

 

 早苗の離婚 そしてとらやでの夕食

 ある日、早苗がとらやに遅刻する旨の連絡を入れる。彼女は喫茶店で従兄弟の肇と会っていた。肇は早苗の夫から離婚届を預かってきていた。早苗は離婚届に署名捺印をする。二人は役所に離婚届を出しに。役所を出た肇は早苗を食事に誘うとするが、今は一人にしてと言われてしまう。

 とらやではなかなかやってこない早苗を寅さんが待ちわびていた。そこへ早苗がやってきて、離婚届を出してきたことを告げる。寅さんはそれは良かったと話すが、早苗は泣き出してしまい2Fへ。さくらが早苗の元へ行き話を聞く。店では寅さんが早苗のために離婚にまつわる言葉を使わないようにとおいちゃんおばちゃんに注意をしていた。早苗が店に降りてくるが、さくらやタコ社長がそんな言葉を使ってしまい寅さんは不機嫌になる。早苗を気遣う寅さんだったが、そこへ旅先で出会った女性が寅さんを訪ねてやって来る。寅さんは早苗の手前、慌てて女性を連れて外へ出て行く。

 夜、早苗を向けて皆で夕食を取っていた。タコ社長も早苗に謝りに来る。寅さんは明るい話はないかと皆に振るが誰も明るい話ができなかった。そんな中、早苗が手を挙げ、明るい話として、私の人生で寅さんに会ったということと話したため、寅さんは照れてしまう。そして早苗は帰って行くが、見送りに出た寅さんに早苗は、私寅さん好きよ、と言い残し帰って行く。

 

 早苗の離婚を知った寅さんのセリフは残酷。しかも寅さん本人に悪気は全くない。涙を見せた早苗は2Fへ駆け込むが、その後さくらのとりなしもあって店へ。ここでは寅さんが禁句を設定するという定番パターンが披露される。よくあるのは、この後寅さん自身が禁句を連発するパターンだが、本作ではそのタイミングで旅先で知り合った女性が登場、いつものパターンから脱している。

 しかし早苗は気分を害することなくとらやで仕事を始める。そしてその夜、恒例のマドンナを迎えてのとらやでの夕食シーン。離婚したばかりの早苗を気遣い、寅さんは明るい話題を探すが、早苗自身が寅さんと出会ったことだと話し、寅さんは珍しく照れに照れる。そこで語ったセリフがおかしく皆大爆笑となる。

 その後早苗は帰って行くのだが、去り際に「寅さん好きよ」のセリフを残して行く。シリーズでも珍しいマドンナから寅さんへの愛の告白である。

 

 

 博の父再登場、寅さんライバルと出会う

 博の父親がとらやへやって来る。店に誰もいなかったため、客の対応をしようとしたところへさくらが帰って来る。

 寅さんは早苗の引っ越しの手伝いをしていた。そこには肇と彼の生徒たちも手伝いに来ていた。寅さんは肇を運送会社の人間と勘違いし小遣いを渡そうとしたが、早苗に従兄弟だと紹介される。生徒たちは肇がまたフラれるのではと噂していた。

 さくらの家に博の父親がやってきていた。そこへ寅さんから電話があり、博の父に会いに来るとのことだった。博の父は喜ぶ。翌日駅に見送りに来たさくらに父親は博のために土地が買ってあると話す。寅さんから預かった五日の旅行で借りた金をさくらは返そうとするが、父親は受け取らなかった。

 

 先のシーンで博が父親に手紙を書いており、父親がとらやを訪ねてきたのはその結果と思われる。ちなみに「男はつらいよ」シリーズは、シリーズ未見の人間がどの作品から見始めても話がわかるように作られているが、博の父親と博の関係はシリーズを見ていないとわからないと思われる。博は優秀な兄たちと比較されるのが嫌で父親の反対を押し切って東京に出てきている。そのためか、博は自分と父親との関係を良くないと考えており、手紙を書くというのは博にとっては珍しいことなのだ。

 ちなみに、この博の父のシーンと早苗の引っ越しのシーンが挟まれるため、早苗の愛の告白の重みは少し和らいだ状態で終盤へ突入する。ここが山田監督の上手いところ。

 

 

 そして終盤へ

 とらやに肇がやって来る。早苗を待っていたが、配達に出ていた。そこへ寅さんが帰って来る。肇は寅さんに預金通帳を渡し、自分は小樽に行く、早苗のことを大事にしてやってくれと話し立ち去ろうとする。それを聞いた寅さんは肇が早苗に惚れていることに気づく。そこへ早苗が帰って来る。寅さんは肇から預かった通帳を渡し、肇が小樽へ行ってしまうことを伝え、肇は早苗に惚れている、不器用だから言えないんだろうけどと話す。早苗は肇の気持ちをわかっていると寅さんに伝えるが、寅さんは本人にそう言ってあげろよと話し、早く肇のところへ行くようにと伝える。早苗は店を休み肇を追いかけて行く。

 その直後、寅さんは旅に出ることに。さくらに止められ早苗さんに何と伝えればと聞かれるが、寅さんは適当なことを言い旅に行ってしまう。

 正月。小樽の早苗から近況を知らせる手紙がとらやへ届く。寅さんから早苗に宛てた手紙も届いていた。寅さんは旅先の列車で旅先で知り合った女性と同席となる。女性は夫との新婚旅行中だった。

 

 早苗の従兄弟である肇が小樽へ帰ることになり、早苗への気持ちを封じ込め寅さんに早苗のことを託す。それを聞いた寅さんは早苗に肇のことを伝えるが、早苗はその気持ちを知っていたと告白、さらに何かを話し続けようとする早苗を寅さんは遮り、肇を追いかけるように言う。この時の早苗は何を話そうとしたのかを考えるとちょっと切ない気もするが。

 

 シリーズ第22作。マドンナ大原麗子の美貌と寅さんへの愛の告白でシリーズの中でも忘れ難い一本。大原麗子はシリーズ第34作でも2回目のマドンナとして登場しているのは、やはり本作が人気があったためだろう。個人的には本作の前年に公開された「獄門島」のヒロインや、同じ頃に放送されていたサントリーレッドのCMが印象深い。

 

 NHKBSで珍しく男はつらいよシリーズを何本か放送しているが、どうやら同シリーズ公開55周年プロジェクトというものが始まっているらしい。良い機会なので寅さんをもう何本か観ておこうか。