3時10分、決断のとき

●436 3時10分、決断のとき 2007

 ダンは夜中に目覚める。馬小屋が火事になっていた。ダンが借金をしているホランダーの手下の仕業だった。息子ウィリアムは馬小屋から荷物を取り出そうとして父ダンに止められるが、ウィリアムはひどいことをされても何もできない父を軽蔑する。ダンは牧場の経営に行き詰まっており、さらに息子マークの治療のために借金をしていた。

 その頃、強盗団ベン一味は駅馬車を狙っていた。ピンカートンの探偵やガトリング銃が備わった駅馬車だったが、一味はダンの家から逃げた牛たちを使い、見事に駅馬車を制圧、乗っていた賞金稼ぎのマッケルロイを撃つが、殺しはしなかった。また駅馬車内に生き残っていた男が強盗の一人を人質にして対抗しようとするが、ベンは仲間共々その男を撃ち殺す非情さを見せる。

 ダンは息子たちとともにベン一味の強盗を見ており逃げようとするが、見つかってしまう。ダンはベンに牛は自分のものだから返して欲しいと頼み、ベンは了解する。一味が去った後、ダンは生き残ったマッケルロイを助ける。

 一味は街へ行き、目撃者を装い強盗があったと保安官に報告、保安官たちが現場へ向かうと酒場で一杯飲みながら奪った金を分け合い、去って行く。ベンは一人酒場の女の元に居座る。

 ダンはマッケルロイを連れて街へ行き、彼を治療する。そしてホランダーに馬小屋の件を抗議し、返済を待ってもらうように頼むが、彼は受け付けなかった。怒ったダンはホランダーを探すが、その際酒場でベンと再会する。しかしベンは保安官に逮捕されてしまう。鉄道会社のバターフィールドはベンをコンテンションの駅からユマ行きの列車に乗せることにし、護送のための仲間を募る。ダンの馬小屋に火をつけたタッカーやマッケルロイも参加、ダンも200ドルの報酬に引かれ参加する。

 駅への護送の途中で一行はダンの家へ立ち寄り、ベンを身代わりの人間と入れ替える作戦をとり、ベンの手下たちの目をごまかす。ダンの息子ウィリアムは一緒に行きたがるが、ダンは止める。そして夜中に出発。しかしウィリアムは密かに一行の後を追うことに。野営をしている時に、寝ずの番をしていたタッカーはベンに嫌がらせをしてベンに殴り殺される。

 ベンの手下チャーリーは一味とともにベンを護送している馬車を襲うが、そこにいたのは身代わりの人間だった。チャーリーは男を脅し、ベンの行き先を聞き出す。

 それを遠くから見ていた一行は、ルートを変え近道を行くことに。しかしそこはアパッチが住む場所だった。途中、馬上でマッケルロイはベンと話し、ベンの親をバカにする。それに怒ったベンはマッケルロイに襲い掛かり銃を奪い、マッケルロイを殺す。ベンは一行を銃で脅すが、密かにあとをつけてきたウィリアムがベンを捕まえる。

 野営をしている時にベンは小便に立つ。ダンが一緒に行くが、突然ベンは姿を消す。一行がアパッチに狙われていたためだった。ダンはアパッチの銃弾で怪我を負う。ベンも一緒に立ち向かい、一人でアパッチを皆殺しにするが、そのまま逃亡してしまう。

 ベンは中国人たちが働く鉱山に差し掛かる。そこで働く男たちに捕まってしまう。一人は昔弟をベンに殺されており、ベンのことを覚えていた。ダンたちは男にベンを返すように頼むが、聞き入れられなかった。そこで一行は暴力でベンを取り戻し鉱山から逃げ出す。男たちが追ってくるが、ダンとベンのコンビ技で通路を爆破し追っ手から逃れる。その際、医者が撃たれて死んでしまう。

 一行は鉄道会社のバターフィールドとダン親子とベンだけになったが、コンテンションの街へ到着、ホテルに部屋を取る。部屋でダンはベンから買収の話を持ちかけられるが断る。バターフィールドが街の保安官を連れてきて一緒に護送することに。

 街にベンの手下チャーリーたちが現れる。7人しかいないため安心した一行だったが、チャーリーは住民たちに、ベンを捕まえている男たちを殺せば200ドルを払うと宣言する。すると街の男たちは銃をとり、ホテルを囲み始める。それを見た保安官たちは降りると言い出し、ホテルから出て行く。しかし彼らは住民たちに撃たれてしまう。

 3時10分が迫り、バターフィールドも降りると言い始める。ダンはウィリアムにバターフィールドと一緒に別の部屋に隠れるように指示、バターフィールドには報酬と家のことを頼む。

 時間になり二人はホテルを出て駅へ向かう。多くの人間に狙われるがなんとか回避しながら進む。住民たちの仕事に苛立ったチャーリーは住民を射殺、自らベンの元へ。ベンは途中ダンにもう帰るように言うが、ダンは足の怪我の真実をベンに告白、ベンは一緒に駅へ向かう。ダンは撃たれながらも駅舎内へ入る。チャーリーたちが駅舎を取りか揉む中、遅れていた列車が到着する。ホテルから抜け出ていたウィリアムは駅そばにいた牛たちを放し、チャーリーたちを妨害する。ベンは自ら列車に乗り込みダンに話しかけるが、その時チャーリーがダンを撃ち殺す。それを見たベンは自分の銃を受け取り、仲間たち全員を射殺する。ウィリアムが駆け寄りベンに銃を突きつけるが、撃ちはせずダンの元へ。ベンは自ら列車に乗り込み、列車は出発する。

 

 いやぁこれは傑作でしょ。リメイク作品らしくオリジナルは観ていないけど、これはリメイクに成功しているんじゃないの。

 何も知らずに観始めたので、ダンの家の借金の話とベン一味の強盗の話が並行して描かれるのかと思ったら、意外に早く二つが結びついて驚いた。というか、ベン、悪い奴なのにあっさり捕まり過ぎでしょ(笑 でも最後の方で明かされる、ベンは2回脱獄しているっていうのも関係しているのか。

 細かい伏線がいっぱいあるけど、それを全部回収していくのが見事だなぁ。冒頭の火事のシーンでいけ好かない息子に描かれていたけど、ラストで頼れる息子になっていたし。ダンの足の怪我が何の意味を持っているのかと思っていたけど、それも回収したし。

 何よりダンとベンの不思議な友情がしっかりと描かれていて良かった。途中ちょっとしつこいと思った時もあったけど、これだけ丁寧に二人の関係性を描いておいたから、ラストが活きてくる。で、ラッセルクロウが渋過ぎ。顔の表情だけで様々な感情を観せてくれた。観終わってピーターフォンダが出ていたことにも驚いた。でも彼はイージーライダー以外はあまりヒット作に出演していないのね。

 

虹の家のアリス 加納朋子

●虹の家のアリス 加納朋子

 前作に続く、「アリス」シリーズの2作目。6編からなる短編集。前作最終章で行方不明となった探偵仁木の助手安梨沙がどうなるか、と思ったが、しっかりと探偵事務所に戻ってきて話は続くことに。

 

「虹の家のアリス」〜ママ友サークルの一人から、サークルへの嫌がらせの調査依頼

「牢の家のアリス」〜産婦人科で生まれたばかりの赤ん坊が行方不明に

「猫の家のアリス」〜ネットの掲示板で連続猫殺しの事件が発生

「幻の家のアリス」〜安梨沙の家の家政婦から、安梨沙の態度についての調査依頼が

「鏡の家のアリス」〜仁木の息子の元恋人がストーカーになってしまう

「夢の家のアリス」〜花泥棒を捜査することになるが、被害は複数の家に及んでいた

 

 前作が面白かったので続編を読んだのだが、まず驚いたのは、事件に関係する登場人物がほとんど前作で登場してきた人物の関係者であったこと。前回も書いたが、探偵としての設定が、乾くるみさんの「カラット探偵」シリーズを思い起こすため、あちらと同様、また様々な展開が待ち受けているかと思いきや、依頼人の輪が意外に狭いので驚いた。しかし探偵仁木の設定が、いわゆる脱サラをして50過ぎでいきなり探偵を始めた、というもののため、そんなに依頼人が増えるわけもなく、関係者のツテを頼って依頼を受けていく、という展開のため、ある意味自然か。

 本作も事件そのものはあまり大きなものはなく、いかにも知り合いの探偵がいれば頼んでみようかと思うような内容が多い。そんな中でも「鏡の家の〜」は、息子が依頼人でありながら、推理小説好きを見事にダマすオチが待っていて楽しめた。

 

 しかしこのシリーズは、事件そのものの魅力より、事件を通して描かれる人間関係が見どころとなっている。前作がどちらというと「夫婦」の関係性を描いたものが多かったのに対し、本作は「家族」の関係性を描いたと言えるかもしれない。特に仁木の子供〜息子と娘〜のことまで描かれ、親として仁木が心配している部分が見える。もちろん、安梨沙の家族のことも登場してくる。

 さらに(現時点で)たった2冊のシリーズであるが、前作に比べて主人公仁木も安梨沙も成長している姿も描かれ、これでシリーズを打ち止めにしようと作者が考えているのもうかがえる。

 なかなか面白いシリーズだったのに、続きが読めないのは残念。

 

平台がおまちかね 大崎梢

●平台がおまちかね 大崎梢

 「成風堂」シリーズを読み終えてしまったので、同じ大崎梢さんの別シリーズをと思い読む。「成風堂」シリーズの(現時点での)最後の作品にも登場した出版社営業部員の井辻くんが探偵役をするもの。

 以下の5編からなる短編集。

 

「平台がおまちかね」〜井辻が初めて訪れた書店の店長に冷たくあしらわれた理由は…
「マドンナの憂鬱な棚」〜いつも元気な書店員の女性が元気をなくした理由は…
「贈呈式で会いましょう」〜自社の受賞作家が贈呈式直前に行方不明になってしまう
「絵本の神さま」〜井辻が訪れた書店が閉店、店主が残した謎の言葉の意味は…
「ときめきのポップスター」〜とある書店でポップコンテストが開催されるが…

 

 「成風堂」シリーズは書店員さんからの視点で事件が描かれていたが、本作は出版社営業部員からの視点。全シリーズ同様、書店や出版社の内情が描かれ、興味深い。

 「成風堂」シリーズもそうだったが、本作も事件解決後の爽やかさが特徴であり、気持ちよく読み終えることができる。

 「マドンナの憂鬱な棚」での各社営業部員たちの活躍、「贈呈式で会いましょう」での贈呈式での挨拶。極め付けは「絵本の神さま」のラスト。何気なく登場していた1枚の写真が見事な伏線になっており、感動してしまった。

 ラストの「ときめきのポップスター」では、先に読んだ「ようこそ授賞式の夕べに」以来、女性付きを公言して来た井辻くんの仲間真柴のがっかり話でオチがつく(笑 いや、読者にとって本当のオチは、成風堂の「あの」女性店員が名前だけ登場してきたこと。こんなところで2つのシリーズをリンクさせるなんて。見事。

 

愛と哀しみの果て

●435 愛と哀しみの果て 1985

 デンマーク人のカレンは不誠実な恋人に愛想を尽かし、彼の弟で友人関係だったブロルと結婚をし、1913年アフリカへ。列車で家へ向かう途中、デニスと知り合う。カレンとブロスはアフリカの英国人たち立会いのもと結婚式を挙げる。

 カレンは農場を始めるつもりだったが、ブロルはカレンに内緒でその金をコーヒー農園を始める資金にしてしまう。その上ブロルは農園の仕事もせず遊び呆ける。カレンは現地人の協力を得て自ら農園の運営を行う。ある日サファリでカレンはデニスと再会、夕食に招く。そこでカレンは自ら作ったお話をしてみせ、デニスはその話に惹かれる。

 第一次世界大戦の影響がアフリカにも及ぶ。男たちは戦線へ。家に残ったカレンのもとへ食料運搬の要請が来る。白人男性に依頼された話だったが、カレンは自ら運搬に出向く。途中デニスに会い、方位磁石をプレゼントされる。ライオンに襲われるなどトラブルを乗り越え、カレンは食料運搬を成功させる。

 カレンは夫ブロルから梅毒を移され、帰国を余儀なくされる。

 治療を終えアフリカに戻ったカレンだったが、病気の影響で子供が産めない体になっていた。さらに夫ブロルの浮気も発覚、カレンはブロルに別居を申し出る。家に残ったカレンをデニスが訪ねてきて、サファリへと誘う。長い時間を共にすることで二人は愛し合うようになっていく。

 二人の友人であるバークレイが不治の病となる。デニスはカレンの家へ荷物を運んでくる。バークレイは亡くなり葬儀が行われる。

 カレンの夫ブロルが離婚を申し出てカレンは受け入れる。カレンはデニスとの結婚を考えるが、彼は結婚という制度を受け入れなかった。話は平行線をたどり、カレンはデニスに家から出ていくように言い、デニスも了承する。

 ある日カレンの農場が火事となり全てを失ってしまう。カレンはデンマークへ帰ることに。デニスが来て帰国の途中まで送ると話すが、彼は飛行機事故で亡くなってしまう。カレンはデニスの葬儀に参列した後、帰国の途へ着く。

 

 名作だと言われているのは昔から知っていたが、今回が初見。アカデミー賞も多く受賞しているので間違いなしと思って観たが、うーん。原作が自伝的小説のようで、実際にあったことをもとにしているからなのだろうが、2時間40分の長さの割に、大きなドラマがあるわけでもなく、内容はある女性の一代記、といったところ。

 アフリカの自然は美しいし、20世紀初頭のアフリカの実態をよく映像化しているとは思うが、本線であるカレンとデニスの恋愛がイマイチなんだよなぁ。結末もあっけないし〜実話だから仕方ないんだろうけど。ちょいちょいあった安っぽい合成画面もいただけないし。

 まぁアカデミー賞受賞作でも、たまにはこんな作品もあるのか(笑

 

斬る

●434 斬る 1962

 天保3年3月、ある屋敷で寝ている身分の高い女性の寝床を「国のため…」と話しながら女中が襲う。女性は庭まで逃げるが、女中は本懐を遂げる。その後、女中は斬首されるが、斬る武士を見て微笑む。山中の夜道を籠が行き、武士に出迎えられる。籠が行き去った後には赤ん坊の鳴き声が聞こえる。藩主牧野遠江守は赤ん坊の到着を喜び、高倉信右衛門に子を預ける。

 それから二十余年、成長した高倉信吾は父信右衛門に旅へ出る許可を求める。藩主は信吾の旅を認める。そして3年が過ぎ、信吾は帰って来る。

 その頃藩には水戸の剣士庄司嘉兵衛が来ており、御前試合が行われる。高倉家の隣家、池辺家では父義一郎は息子義十郎が庄司を倒すことを期待していた。義十郎は信吾の妹芳尾に惚れており、父に結婚の申し込みを頼んでいたが、父は庄司に勝って名を上げ、もっと身分の高い家から嫁をもらうつもりでいた。しかし藩の武士達は皆倒される。藩主の命により信吾も立ち会い、三絃の構えを取り、庄司を圧倒する。信吾は藩主に褒められる。

 しかし池辺義一郎はそれが面白くない。城内で信吾が生まれた時のことを話し、信吾は不義密通で生まれた子だと噂を立てる。それを信吾が聞いてしまう。信吾は父に真意を確かめるが、父は池辺義一郎が娘芳尾を嫁に欲しいと言って来たがそれを断ったため、義一郎があらぬ噂を立てるのだ、お前は私の息子だと話す。信右衛門は城内で義一郎を問い詰め、それが藩主の耳にまで聞こえ、義一郎は藩主からお叱りを受ける。義一郎は出世の道が絶たれたと思い、高倉家を訪れ、信右衛門と芳尾を斬り、藩を出て行く。

 知らせを受けた信吾は家へ急ぐ。虫の息の父から、自身の出生の秘密を聞く。信吾は本当は自分の子ではなく、藤子さまの子供であり、江戸屋敷の侍女だった藤子は城代家老の命で藩主を虜にしていた妾若山を殺した、藤子は刑に処されることになったが、藩主の妻が助命を考え、家老安富が長岡藩の多田草司に藤子の籠を襲い藤子を懐妊させるよう嘆願した。藤子に子が生まれれば、藩主の怒りも収まるだろうと考えたのだった。多田は藤子を助け、子を授かった。1年後家老安富は藤子を捕らえたが、藩主の怒りは収まっておらず、処刑されることになった。処刑したのは、多田だった。

 信吾は藩を出て行こうとしていた池辺父子を斬り、そのまま旅に出る。藩主は信吾を探さないように命じる。信吾は長岡で一人暮らしていた父多田に会いに行き、その思いを聞き、また旅に出る。

 旅先の宿で田所主水に声をかけられる。彼は姉佐代とともに仇討ちをしたが、今は追われる身となっており、姉佐代をかくまって欲しいと頼まれ、信吾は了解する。宿に追っ手が現れ、主水は立ち向かう。佐代は信吾が止めるのを振り切り、主水を助けに出て行く。裸になり身を呈して、主水が逃げるのを助ける。それを信吾は驚きの表情で見ていた。信吾は佐代の墓をたて、江戸へ。

 江戸の千葉道場で道場主栄次郎と立ち会う。栄次郎は信吾の腕を見抜き、幕府大目付松平大炊頭に推挙する。信吾は松平家に仕えることに。

 3年後、水戸の脱藩者達が英国公使館に斬り込む事件が起きており、松平は水戸へ行くことになり、信吾も共をする。道中悪漢たちに襲われるが、信吾が切り捨てる。信吾は水戸で松平とともに平和な時を過ごす。翌日水戸城の執政興津に会いに行くが、その帰り道、またも悪漢たちに襲われる。その中には、庄司嘉兵衛がいた。信吾は庄司と立ち会い見事に相手を倒す。

 松平の水戸での仕事も最後となり、無事に済めば明日江戸へ帰ることになった。二人は城内へ訪れるが、相手の罠にかかり、松平は斬られてしまう。異変に気付いた信吾も襲われるが、相手はあの田所主水だった。信吾は切り枝で信吾を倒し、松平の元へ急ぐが、すでに松平は事切れていた。信吾は覚悟を決め彼の前で切腹をする。

 

 2年前に初めて市川雷蔵眠狂四郎シリーズ(「殺法帖」と「勝負」)を観ているが、久しぶりに雷蔵さん主演の一本。助演の女優さんも皆キレイでちょっと驚いた。藤村志保さんは、寅さんのマドンナでしか知らなかったので本当に驚き。

 約70分の短い映画なので、単純な話だろうと思い観始めた。20分で家族が殺され、あぁ仇討ちの展開なのか、と思っていたら、その10分後には仇討ち完了。そうか、後半は母親を死に追いやった藩主を狙いに行くのか、と思いきや全く予想外の展開を見せる。

 父に会い、旅先で仇討ち後の姉弟と出会い、そして死に場所を求めて江戸へ。ところがそこから幕府大目付に仕えることになり、ラストは意外な切腹で幕を閉じる。

 雷蔵さんはこんな悲劇の主人公が似合っていたんだろうなぁ。眠狂四郎シリーズもまさにそんな感じだったし。映画そのものも、70分の割に、カット割りは新鮮だったし、展開も早くそれでいて、信吾と松平の茶室でのやりとりなどは最近の時代劇では観られないようなものだったし。コンパクトにまとまっており、傑作時代物と言って良いのではないだろうか。

 ネットで調べて、庄司嘉兵衛を真っ二つに斬り倒すシーンは観直してしまった。スゴい描写(笑 まだまだ時代劇が全盛の頃だったんだろう。  

 

リバティ・バランスを射った男

●433 リバティ・バランスを射った男 1962

 西部の田舎街シンボーンに列車でランス上院議員とその妻ハリーがやって来る。出迎えたのは元保安官のリンク。ランスは早速新聞記者に捕まったため、ハリーはリンクの案内でとある一軒家へ。そこは火事で焼けていたが、家の前にはカクタスローズの花がキレイに咲いていた。

 ランスは記者達の求めに応じ、なぜこの街へやって来たのかを話していた。それはトム・ドニフォンの葬儀に出席するためだった。ランスはそれだけ言い残し、妻とともに葬儀屋へ。そこにはポンペイという黒人が遺体のそばで待っていた。そこに新聞記者達がやってきて、トムの葬儀に出席する理由を問いただす。ランスは鉄道が引かれる前の話だと言って、昔話を始める。

 ランスは若い頃、法律家になることを目指し東部から西部のこの街へ馬車でやってきた。しかし途中リバティ・バランスという荒くれ者達に襲われ金品を盗まれ、法律家になるということも罵倒され殴り倒される。

 負傷したランスをトムが助け街へ連れて来る。トムはハリーにランスの看病を依頼する。ランスは法を持ってリバティを罰すると宣言するが、トムにバカにされる。西部では法よりも銃が強いと。実際街の保安官リンクもリバティ逮捕には及び腰だった。

 ランスはハリーの家、食事処の手伝いをするようになる。読み書きができないというハリーにそれを教えることを約束する。ある日、街にリバティがやって来る。リバティは給仕をするランスを見て笑い、足を引っ掛け食事をぶちまけさせてしまう。怒ったランスをトムが止め、リバティに拾うように命じる。しかし落ちたものを拾ったのはランスだった。トムはリバティを脅し、リバティは店から出て行く。

 ランスは学校を始め、街の子供達や読み書きができない大人達を教え始める。地元紙を読み上げ、憲法や選挙の大切さを教える。そこへトムがやってきて、地元紙が牧場主達に読まれたら、血が流れる、牧場主達は今の準州のままで良いと考えており、地元紙が書くように州への昇格は望んでいないため、リバティが銃で脅して来るに違いないと話す。ランスは学校を解散させる。ハリーはそんなランスに失望する。

 ランスは銃を練習しリバティに立ち向かうつもりだったが、トムはランスの銃が下手なのを見て笑い飛ばす。そしてシンボーンの代表者を決める集会が開かれる。トムの言っていたようにリバティがその場に現れ立候補をする。しかし住民が選んだのは、地元紙の発行人ピーボディとランスだった。怒ったリバティはランスを殺すと話しその場から去っていく。

 その夜、街にリバティが現れる。ピーボディの新聞社を訪れ、彼を殴り倒し、社内をめちゃめちゃにする。ランスはピーボディの元へ。彼は最後の言葉を残し死んでしまう。ランスは銃を取り、まだ街に残るリバティに戦いを挑む。右腕を撃ち抜かれたランスだったが、左手で銃を操り、リバティを射殺する。負傷したランスをハリーが治療しながら失礼な態度をとったことを謝罪し、愛を告白する。そこへトムがやって来る。二人の仲を見たトムはランスに声をかけ去っていく。そして酒場へ行き、リバティの子分達を蹴散らした後、酒場で騒ぎ、ポンペイとともに家へ帰る。家ではハリーを迎えるために増築していた部屋に火をつけ火事を出してしまう。ポンペイが彼を助け出す。

 キャピトルシティー準州会議が行われる。ランスもピーボディとともに出席、ランスは準州代表に推薦される。牧場主達との代表争いになるが、相手がランスのことをリバティ殺しで手を血に染めた男だと言われ、ランスは代表を辞退しようとする。

 そこへトムがやって来る。そしてリバティを射ったのは自分だったとあの夜の詳細を話す。それを聞いたランスは代表になることを決意する。

 以上がランスが語った昔話。彼はその後ワシントンへ行き、準州から州へ昇格、自身は知事となりその後上院議員となったのだった。話を聞いた記者は記事にはしないと話す。伝説は今は事実ですからと。

 トムの棺にはハリーが飾ったカクタスローズの花があった。ランスとハリーは列車で帰る途中、任期を終えたらシンボーンへ帰ってこようと話す。

 

 このブログを始めて西部劇は70本近く観てきたが、一番驚かされた一本かもしれない、もちろん良い意味で。ジョンウェインが主役っぽくなく、完全にジェームズステュアートが主役として話が進んでいくのに違和感があった。さらに敵役リバティとの対決シーン、利き腕を撃ち抜かれたにもかかわらず、左手でなんとリバティを倒してしまう。そんな御都合主義の結末かよ、と思っていたら、今度はジョンウェインがカッコ悪いこと(笑 好きな女を取られ、ヤケ酒を飲み、酒場で暴れ、家に火をつける。

 でラスト、準州会議に流れ込む。あぁ法と銃の戦いがメインテーマだったからなぁと思っていたら、まさかのジョンウェインが登場してのどんでん返し。しかも後のミステリー映画さながらの、「あの時のシーンを別角度から再現する」というおまけ付き。

 いやぁ驚いた、本当に。この1点だけで十分傑作。と思ったらジョンウェインとジョンフォードコンビ最後の西部劇なのね。やるなぁ。

 

ホタル

●432 ホタル 2001

 山岡は鹿児島で妻と漁業をして生計を立てていたが、妻の病気のため遠出をすることはなくなった。

 一方北海道では藤枝が昭和天皇崩御を聞いた後、雪山へ登山しに出発する。

 昭和天皇崩御を受け、山岡の元に新聞記者が取材に来る。彼は特攻の生き残りだった。しかし山岡は何も答えなかった。

 藤枝は孫娘とともに知覧にやって来る。藤枝は山岡と特攻隊で一緒だった。知覧の母に会い、山岡宅へ連絡をするが山岡が留守だったため、藤枝は山岡に会わなかった。知覧の母は孫娘に特攻隊の仲間が出撃前夜、ホタルになってでもきっと戻って来ると話し、その翌日本当に皆の元へホタルが現れた話をする。山岡は藤枝のことを聞き、会わずに帰った藤枝のことを不審に思う。

 しばらく後、藤枝が雪山で亡くなったと連絡が入り、山岡と妻は葬式へ参加する。山岡は藤枝が知覧に来た際、会いに行けばよかったと後悔する。

 知覧に戻った後、山岡の妻の病状が悪化し入院することに。一方、知覧の母から呼ばれた山岡は知覧の母が仕事を辞めること、ついては特攻の仲間だった金山の遺品を遺族がいる韓国に届けて欲しいと頼まれる。金山は山岡の妻の許嫁だった男で、戦死していた。

 山岡は家に戻り探し物をしている時に、妻が遺書のような書置きをしているのを見つける。また医者から妻がこのままでは持って1年半だと宣告される。腎臓移植が必要と言われ、山岡は自分の腎臓が適応しているか検査を受けることに。

 そんな山岡の元へ藤枝の孫娘が訪ねて来る。藤枝が書き残したノートを持って来る。そこには昭和天皇崩御とともに自死を選んだ藤枝の思いが書き残されたいた。山岡は金山が残した遺言を思い出す。

 知覧の母の引退日がやって来る。藤枝の孫娘も参加する。その孫娘の前で知覧の母は涙の挨拶をする。山岡は孫娘に特攻隊時代の思いを語る。孫娘を見送った後、山岡は妻に金山の遺品を届けに一緒に韓国へ行って欲しいと頼む。

 二人は韓国の金山の遺族に会いに行く。厳しい対応をされるが、山岡は金山の遺言と遺品を渡す。金山の家族の墓参りをすると、そこへ一匹のホタルがやって来る。

 そして20世紀最後の年末、山岡と仲間達は山岡の漁船を燃やすために集まっていた。山岡は炎に包まれる船を一人で眺めていた。

 

 健さんの映画は随分観てきたつもりだが、これは初見。健さんがこんな戦争をテーマにした映画に出演していたとは。しかも昭和天皇崩御と特攻隊を組ませるとは。厳しいテーマのためか、全体的に明るさはない。

 さらに言えば、エピソードがとっ散らかっている感じも否めない。序盤にあった密入国してきた外国人の話や山岡の漁船の話など、伏線かと思いきやそのままにされてしまっていたり、藤枝の孫娘が山岡の元でしばらく過ごす時間もテーマからはピントが外れている感じ。

 アメリカにはベトナム戦争帰還兵の苦悩を描く映画をいっぱいあるが、日本にはこの手の映画はあまりないように思う。健さんを観たかったので観たのだが、観て良かったと思える一本。